予知能力者の里 02
今回は調査が主な仕事だった。期限は二週間。聴き取りに一週間、残りの一週間のうちに評価を行い、二ヶ月後の一月中旬までにはすべての結果をまとめ報告書を作成せよ、と言われている。
塩田町駅から少し山のほうに入ったところに、鳴木と言う集落がある。
軒数にして全二八、鳴木上と下とに組が別れている。
その集落には、地域の人々ならば一度は耳にしたことのある『先見』と言われる連中がかなりの率で含まれている。そういう噂が、以前からあった。
先見、すなわち予知能力者というのは、全国各地にも伝承程度には話がぽつぽつと残されているが、集落ごとまとまって高頻度の特殊能力者がいるかも知れない、ということでこの地区は一部のオカルトマニアには『聖地』に祀り上げられていた。そしてたまに、面白半分のマスコミや研究者もどきが訪ねていくこともあったようだが、結局いつも、はっきりしたことは分からずじまいだった。
MIROCは三年ほど前に、この地域で聞きとり調査と予知能力に関するアンケートテストを行ったことがある。
だが、その時のリーダー・ドミンゴははっきりした結論を出せず、その後少ししてから他の任務中に亡くなってしまったこともあり、こちらも真相はあやふやなままでうずもれてしまっていた。
今回再調査となった理由はふたつ。一つは、本部開発部にある能力開発チームから正式なオーダーがあったこと。これは多分、サンライズが発現しつつある『力』と大いに関係がありそうだった。使えそうなものは何でも集めておこうという考えらしい。
もう一つの理由は、先日MIROC本部のダミー窓口にかかってきた匿名の依頼だった。
名乗りたくない、と言っていたが若い女性か子どものような声だった。
上田市の上鳴木にいた知り合いが今年に入ってからずっと行方不明なんです、村の人たちは、単なる家出だろうって言って、捜してくれません。でも心配なんです。
いなくなったのは、オオクラ・ケンジといいます。成人式の後、消えてしまったんです。お願いします、捜してください。
警察に相談しなかった理由は、分からない。
なぜ、公共機関の中でも世間にマイナーな所を選んで依頼の電話をかけてきたのか。
逆探知した結果、電話は上田市鳴木のとある家庭の一般回線だったということが判明した。
三年前の調査とつなげて考えれば、この地区からMIROCに電話があってもそうおかしくない。かかってきた番号は、エージェントが相手に渡す名刺についている番号のうちの一つだった。
これは『日本リサーチセンター』という名前で登録されていた。相手は、以前の調査時にドミンゴから渡された名刺をみて、電話してきたのだろう。
行方不明になったのは1月、それから10ヶ月以上もたってからの今になってなぜ、電話をかけようと思ったのか?
そこも含めての調査命令だった。