きな臭くなるばかり 02
盗聴されているとも知らず、会話は続いている。
「まずいわよ、何か気づいたのかも」
「だってよ、オマエ言ってたじゃねえか」
ヨシアキの声とそっくりだが、もっとがさつな感じだった。
義理の姉もオマエ呼ばわりだ。
「ケンジ、わざとじゃなかったんだろ? いざとなったらちゃんと警察に話してさ……」
「あのコが殺したって言われるに決まってる」
切羽詰まった声だった。
「アンタもケンジを駅まで送ったんだからさ、イロイロ聞かれるわよ」
ようやくはっきり見えた。
ケンジは成人式で会った男と、夜どこかで待ち合わせをして会おうとした。
何かがあって男は死んだ。または死んだと思われた。
ケンジはあわてふためいて家まで帰り、母に相談した。
母は困って、義弟の南に相談して、ケンジを駅まで、車を元の駐車場まで運んでもらったのだ。
「なんでケンジもそんな男に会ったんだよ」
南のオヤジが愚痴る。
「知らないわよ、先見のことで聞かれた、としか。調査結果も知ってたって」
「オマエ、何でもっと慎重にさせなかったんだよ、バレねえようによ」
「その時は一緒に住んでなかったじゃない、アンタのせいで」
南のオヤジと、彼女は深い仲だったのか。
親しげな口調に合点がいった。
「とにかく、ケンジがどこにいるのか本当に分かんねえのか?」
「分かんないわよ、松戸か柏に先輩がいるから寄る、とは言ってたけど」
連絡もまったくない、と言っている。
「そこは連絡してみたんだろ? いなかったって」
「だからワタシも心配してんじゃない」
泣きそうな声だった彼女、急に冷たい言い方になる。
「こんなことなら、ミヨがさらわれちまったらよかったのに」
「ミヨ? ああ、ケンジのガールフレンドか。何だよ急に」
「ケンジが前に言ってたから。あのコの方が先見は強いってさ。検査でもケンジと並んで成績良かったらしい。テストの時はケンジがちょっかい出し過ぎたせいで何だかのテストは全然成績よくなかった、って怒ってたらしいけどね。まあ、子どもは隠すことをしないから」
モニタを聞いていた彼らは顔を見合わせる。
そこに更に彼女の声がかぶった。
「とにかく、何かいい方法ないか考えてちょうだい。特にあのリサーチの連中。また来ると思わなかったし、何故かケンジの行方ばかり気にしてるし」
「わかった分かった、何か考えとくから」
電話が切れてから、ボビーははあっと大きな息を吐いた。
「やっぱり、酷い母親だわ」
サンライズも、腕を組んでしまう。
「南のオヤジ、まずいかもな……」
明日が木曜、戸別調査に費やすのははあと二日しかない。
このまま探偵を続けるか、とりあえず書類にしなければならない調査を先に済ませるか、束の間迷った。
「よし」
案外早く、結論は出た。彼はボビーに向き直った。
「明日明後日、悪いけどミヨちゃんのボディーガードしてくんない? オレは戸別調査を済ませるから」
「何ですって? ギャルの子守り?」
男子ならばいいのに、という顔をしているがお構いなく続ける。
「南のオヤジから情報がリークする可能性もある。大倉の母親ももしかしたらケンジを早く見つけたくてヤツらと取引するかも知れない。そうすると次に危ないのはミヨちゃんだからな」
「でもさ、彼女に言わせればもうダイジョウブなんじゃないの? ワタシたちが動き出したから」
どうしても、ギャル守りがイヤなのか、ボビーは懸命に抗う。
「それは判んないさ」
しれっとサンライズが言った。
「彼女も言ってただろ? ある程度は見えても、その先はまたわからない、って。オレたちってさあ、果てしない未来へと続く荒野を彷徨い歩いている、しがない旅人なんだよ」
オレ、いい事言うなあ、と一人で感心してみせる。
早速、佐伯家に電話して、明日から調査のためにミヨさんに同行させていただきます、と伝えていた。
ボビーがまた、深くため息をついて愚痴っているのが耳に入る。
―― 何が彷徨う旅人よ、キザ。




