きな臭くなるばかり 01
シヴァの部屋でまた、作戦会議となった。
一日ゆっくりとしたボビー、目の角がとれ、表情が穏やかになった。
判り易い人だ。
「まず、トクマス・シゲヨシは偽名だと判った、と」
外資系製薬会社に勤務というのもダミー。
実際はアメリカにある『アクシオ』という名の情報コンサルティング会社に所属していた。
この企業は軍ともかなり癒着しているらしく、米国の国益に関わるような軍事データや機密事項を数多く仕入れては、軍に高く売っているらしかった。
トクマスは、極東担当のエージェント・デルタと呼ばれる調査員だった。
「MIROCとは昔から相性が悪いらしいな」
シヴァが出してきたデータを見ながら、サンライズは渋い顔になる。
「ヤツらは別件でも何度か、MIROCの任務に割り込んで来ている。特に軍事転用できそうな内容に対してね」
「だから前に言ったろ?」
シヴァの口調は辛らつだ。
「MIROCのセキュリティが甘すぎるってね」
確かに、前回の調査結果がリークしたのだろう。
シヴァ、更に一連のリストを出した。
「前回の調査で多少なりとも評価結果が高かったミヨとケンジを、ずっと追跡調査していたらしいね」
買い物リストのようだったが、トクマス・シゲヨシ名義のクレジット使用歴を一部、照会した結果だった。
3年前から今年1月までに、上田市でのカード使用がかなり見られる。
しかし記録は1月16日を境にぱったりと無くなっていた。
成人式の日に、トクマスならぬエージェント・デルタはオオクラ・ケンジと接触した。
が、翌日には死体となって発見された。
ケンジは重要参考人ということになる。
「ねえリーダー」
ボビーは、また新しいワインを飲んでいる。
今度は信州のワイナリーのものらしく、かなりいける、という評価だった。
「デルタは予知能力者をスカウトしようとしてたって言うの?」
「あり得るね」
「でも殺された」
「まだ判らないがね。そして参考人も姿を消してしまった」
「今回、ワタシたちがここに来たのは大丈夫? ヤツらにバレてないのかしら?」
サンライズはシヴァをみて、それからまたボビーを見た。
「前回と比べて、セキュリティー面ではかなり進歩があるはずだ。有能なエンジニアが一人、我々側にもついたからね」
シヴァがもっともらしくうなずいている。
「ただ、何ごとにも油断は禁物だが」
そこにモニターがかすかな警告音をたてた。
「シヴァ、これは?」
「オオクラさんちの電話、どこかにかけてるところ」
「音が出るか?」
シヴァが外部音量のつまみを回した。
明瞭な話声。ケンジの母だった。
「そうよ、また来たのメガネが」
オレのことかな、とサンライズつぶやく。
「ケンジの車を貸してくれ、って。ヨシアキ、何も言ってなかったの?」
ヨシアキの名前まで出ている。
相手の声がやや小さく聴こえてきた。
「晩飯の時は何も。オレ、その後寄り合いがあったしさ」
サンライズが目で問うと、シヴァがモニターを操りながら答えた。
「相手は……イエローページにあるね。ミナミモータース」
とすると電話の相手はヨシアキの家の者、声からして父親のようだ。
ケンジの元父親の弟で、彼女からは義弟にあたる。
直接血はつながっていない上に、ダンナとは縁が切れているはずなのに、かなり親しげな口をきいている。




