足取りを追って 02
少し考えをまとめてみる。
ケンジは式当日の夜、多分二次会の後で「時間を気にしながら」まずスタンドに寄り、それからどこかにドライブに出た。
ゴールは市民会館、走ったのは、あまり長くはないが無視できない距離、23.7キロ。
美世がこの夜、誘われた様子はなかった。
彼女も「式当日は朝声を聞いただけで、会っていない」と言っていたし。
あっけらかんとしてはいたが、嘘をついているようではなかった。
母親は、彼が夜遅くタクシーで帰宅し、翌朝家を出て電車に乗って車を取りにいった、と言っていた。
しかし結果的に、ケンジはそのまま家を出てしまった――印鑑と通帳を持って、と。
ケンジがまるっきり酒を受け付けない体質らしいというのは、ヨシアキとの雑談の中で聞いていた。
何でも、高校の頃親戚の飲み会で誰かに無理やり勧められ、「飲めねえってば」と本気で怒っていたそうだ。
単にクソマジメなんじゃないの? と訊いたら、ヨシアキが笑って言っていた。
「正月に、水で割った梅酒で乾杯したことあったけど、真っ赤になっちまって、苦しい! って大騒ぎでさ」
母親は、なぜ彼がタクシーで帰ったことに疑問を持たなかったのだろうか?
母ならば、彼が下戸であるのは十分承知していただろう。
少し飲んだ、とでも説明されたのだろうか。
それにしても、夜のドライブは気になりすぎる。
それに、翌朝車を取りに行って、そのまま車に乗らずに姿を消してしまった点も。
ガソリンを満タンにして、スキップ計をリセットしたということは、また続けて乗るという意思表示にしか思えない。
最初思いついたのは、成人式の場で誰かと会う約束をして、どこかに出かけたという線だ。
遅くなると予想して、先にスタンドに行ったのならば、ケンジらしく慎重な行動だとも取れる。
駐車場に車を置き去りにして、その誰かと飲みに行き、タクシーで帰らざるを得なかった、というのは確かに自然な気がするし、もしかしたら、会った相手から何か言われ、それがきっかけで家を出ようと決意したのかも知れない。
しかしそうしたら、ケンジのことだ。さすがに翌朝、車は置いて行かないだろう。
それに、スタンドを出てから余分に動いた23キロ余が、あまりにも大きすぎる。
あるいは……何かの事件に巻き込まれた。
彼は単純に、帰宅するつもりでガソリンを入れに寄った……しかしその後で何かのトラブルがあったとか?
その場合は最後に運転したのは本人ではないのかも知れない。
しかし、母親は市民会館の駐車場にケンジが車を置いていたことは、把握していた。
でなかったら、ヨシアキに車を取りに行くよう頼めなかっただろう。
サンライズの直感が告げていた。
―― どの道筋にせよ、母親は何かを知っている。
そして、隠している。
息子がすっかり姿をくらましてしまったというのに。




