足取りを追って 01
サンライズ、午後は独りになって、もっぱら成人式当日のケンジの足取りを追って過ごす。
車の中で聞いたヨシアキからの情報は、思いのほか役にたった。
まず、成人式当日に近所の幼馴染を会場まで送ったことが判明した。
幼馴染の現在の勤めは市街地の花屋だったので、そこまで行ってきいてみる。
「はい、お昼ご飯の後乗せてってもらいました。ちょっと……」
その時のことを思い出したのか彼女は少し鼻にしわを寄せる。
「ワタシ、家で着物着たのね、でもぉ着付けに手間取っちゃって、イライラしてたみたいケンちゃん。ガソリン入れる暇ねえ、ってイラついてて、このまんまじゃ帰りまでもたねえ、ってぶつくさ言われて、気分悪かったわぁ。で、そのまま会場行ったのよねぇ。式場までロクに口もきいてくれなかったし」
それでも、彼が式の後にガソリンを入れようと思っていたのは、はっきりした。
次にスタンド、西川油業へ。
古くからやっている店らしく、店員はケンジとZのこともよく覚えていた。
「ああ、若いのに運転が慎重でねえ……車も中古だって言ったけどキレイだったね。ガソリン、最後に入れたのが(サンライズの差し出したレシートを見て)ああ、うちのだね、これ。ハイオク満タン、1月15日20時49分、そうそう覚えてるよ。背広着てたから、どうしたんですか今日? って聞いたら、成人式だったぁ、ってちょっとうれしそうだったね」
「素面のようでしたか?」
「あの子はねえ、まじめそうだったしね、酒は入ってなかったと思うよ」
やはり、式の後で本人が車を動かしていたのだ。
しかし、そこで幼馴染の言葉がよぎる。
「……『帰りまでもたねえ』、って」
他にどこか寄るあてはなかった、と捉えていいのだろうか。
「そこからどこに行くか、話してましたか?」
「いや……どうだったろ?」
店員はめまぐるしく記憶をたどっているようだったが、あまり覚えていないようだった。
「なんか、時間は気になったみたいで何度も時計は見ていたけどね」
それから、いつもと同じように左に出ていった、と思う、とのことだった。
自宅に帰るにせよ、上田駅方面に行くにせよ、左折は妥当だろう。
「その時、スキップをいじってましたか?」
彼の質問に少し意外そうな顔をしたが
「よく知ってるねえ、燃費は気にしてたからね」
とすぐに答えた。
こっそり持ち帰ったレシートの束、どの紙片にも端にボールペンで数字が書き込まれていた。ガソリンを入れるたびに燃費を調べていたのだろう。
サンライズにも同じ習慣があったので、もしや、と思ったが聞いて正解だった。
おさらいのために、彼はそこで乗っていたバンのスキップ計を0に合わせた。
Zのスキップ計がリセットされてから確実に走行している距離は、今のところヨシアキが持ち帰った分の12.5キロ。
しかしまだ、23.7キロ分の走行が宙に浮いている。
いったん車で家に帰ったのだろうか。
時間を気にしていた、と言ってたのが気になった。
サンライズは、スタンドを左に出て、通常通るだろう道を想像しながら、大倉家に向かう。
大倉家の前をさりげなく通り過ぎ、少し見えにくい所でストップ。距離を確認する。
スタンドからだと、ここまで約8キロだった。
面倒な気もしたが、今度は大倉家から市民会館まで直行での道のりを辿ってみる。
母親が言っていた通り、約10キロの余。
少し広い道路を迂回しても、11キロくらいで済みそうだ。
そしてこれも念のため、市民会館からスタンドまでの距離も測ってみる。2.2キロだった。




