ヨシアキ、Zを駆る 01
大倉の家では、母親が相変わらず不安げな顔で表に出てきていた。ヨシアキが
「ちわっす」と軽く手を上げると、一応笑顔はみせたが、それも冬の日差しと同じく、かなり弱々しい感じだった。
車を半日貸してくれないか? とヨシアキから言ってもらう。脇でサンライズが
「ガソリンは満タンでお返ししますから」
と言い添えても、元々車にはあまり興味はないような彼女は、はあ、と言っただけだった。
賭けだった。大事な車なので貸したがらないだろうと予想はしていた。しかし、特に反論もせずに、彼女は鍵を出してきてくれた。
その後、いかにも大事なことを伝えるかのようにしばらくガレージで立ち話をしていたが、胸元の通信機が赤く光ったのに気づき、
「はい」と出ると
「シヴァ、セットレディ」合図があったので、それじゃ、とヨシアキと車に乗り込む。
車で敷地を出ると、さすがにヨシアキもうれしそうだった。
「やっぱ、いいよなあZ」
サンライズはスキップ計を0に戻してから、まずできるだけ通常のコースでまっすぐ市民会館ホールへ行ってもらう。
駐車場について、サンライズは身を乗り出す。
「ヨシアキくん、停めてあったのここだった?」
「いや」駐車場は満杯で、目の前を白いバンがふさいでいた。
「あの白いヤツが入ってたトコ。どうします?」後ろから別の車にクラクションを鳴らされ、「うるせえなあ」ちっと舌打ちしつつ、ハンドルを切る。
「いいっすよね、ここからでも」
「いいよ」いったん助手席から身を起こし、スキップ計を確認してから0に戻す。
「じゃあ出発」後ろについた車に軽く手を挙げて、車は駐車場を滑り出た。
「まずその日は、コンビニ寄って」
言いつつも一軒やり過ごし、次の店(しかも右側)に無理やり入る。対向車がけたたましいクラクションを鳴らして通り過ぎた。
「どうしてこっちに」胸を押さえながらサンライズが聞くと
「ああ、なんかセブンの方がよくて」
自分のバイト先もセブン、なかなか愛着があるらしい。
「で、電話もかけるんスか? あの時みたいに」
「どこにかけたの?」
「ツレんち。ちょっと用事あったんで」
「省いていいよ、行こう」
次のどっきりは、かなり広い道路での出来事。
順調に走っていたヨシアキ、何の前触れもなく突如ブレーキを踏み、ハンドルを大きく左に切った。
「何だよ!」きりきりとタイヤがひどい音をたて、煙があがる。
「いや……ビデオ返すの忘れてて」左にある店に、バウンドするように入る。
「そん時寄ったんすよ、今思い出した」
「はいはい」




