過去をさらう作業 02
「これ英訳したの誰だ?」
急いで元データを見直している。
タイプされた3年前の名簿には『門脇健治』とあった。
「……振り仮名のミスかな」
もしかしたらケンジのことかもしれない、年齢もどんぴしゃだ。
美世は当時、テストに参加したはずだ、しかし、彼も参加していたとは一言も口にしていなかったし、大倉ケンジの名も元々リストにはなかったので、わざわざ彼女に聞いてみることもしなかった。
当時のテストの様子をもっと突っ込んで聞くべきだった。
「シヴァ、明日この子の家族構成とか調べて。どちらの大倉家にいたか、とか預けられた事情も含めて」
「はい先生」
生徒はようやく素直になった。
サンライズはさっそく、電話をしてみる。
「あ、ミナミ・ヨシアキくん?」
―― リサーチセンターのアオキです。うん、鳴木の組長さんから話は聞いているとか思うけど、そう、ケンジくんの件で。それでさ、明日ってバイトとかある? ちょっと、会いたんだけど。
うん午前中いっぱい、付き合ってほしいんだ、バイトだと思ってさ、二時間もあれば……五千円払うよ。
商談がうまくまとまって、サンライズは満足して電話を切った。
「シヴァ、明日午前中また鯉のいる大倉さんちに行くんだが、一緒に行ってくれないか?」
「え? もう鯉は見たからいい」
「違うよ、」
現在の大倉家の家族構成を再度、見直してみる。
「やっぱり、あやしい」
久々にすっきりと晴れやかな気分だった。
「あのうち、ケンジのオジとオバは朝から仕事に出ている。バアチャンは8時半からデイサービスの車が迎えに来るし、ケンジの従兄弟たちはもう家に住んでいない。いるのはケンジの母親だけだ」
「ちょいワルな顔ね」
ボビーがなぜか頬を赤く染めたが、サンライズはもうそれどころではない、明日の計画に夢中だ。
「シヴァ、オレがあの母親をガレージに足止めしてる間に、電話に虫つけろ、できるよな?」
「ラジャー」
ようやく完璧な得意分野になったらしく、シヴァの表情も生き生きしている。
「さてと」
さっぱりした気分のまま、サンライズはぱん、と手をたたいた。
「西武に買い出しに行きたい人?」
誰も手をあげない。だから、じゃんけんになった。
白熱した試合の末、サンライズが負けた。
「くっそーオマエら、上司を舐めてるな」
「最初にじゃんけんなんて言うからですよ、主任」
シヴァの日本語はこう言う時には淀みない。
雪降ってるのに、凍死したら化けて出てやる、文句のありったけをぶちまけながら、コートを羽織ってその主任は外に出ていった。




