過去をさらう作業 01
シヴァはまだホテルにいなかった。
雪もひどくなってきたのに、心配だなと言っているところに、ひょっこりと帰ってくる。
「捜しに行こうかと思った」
ボビーが駆け寄って、肩に積もった雪を払ってやった。
「あら、また部品買ってきたの」
「いい店があったよ」
シヴァの表情はあまり変わってないが、かなり嬉しかったらしく、ずっと買ってきた基板のことを話している。
「これは元々エアコンの中身だけど、時限発火装置に応用する場合このタイマー起動を……」
「シヴァ、」サンライズ、やんわりと制する。
「悪いがそれは後にして、まず調査の報告頼む」
「カラーモニタに使えるのはこっちでさ」
「シヴァくん」彼は、基盤をバッグごと取り上げた。
「これは、帰りまで先生があずかります」
「えええ? 何でだよ」シヴァは目を怒らせた。「ケチ。イケズ。インポ。デベソ」
「つまらん言葉ばっかり覚えるのは早いなあ」
「先生が良いからです」
生徒の即答に苦笑しつつ、彼はボビーも誘ってシヴァの部屋へと入っていく。
シヴァは調査報告になったとたん、急に目つきが真剣になった。
「当時の新聞記事、信濃日報の成人式のニュース。それとその日の近辺での事件事故」
驚くべきことに、シヴァは日本語の読解能力を一段と上げていたようだ。本人いわく
「ひらがなだけの文字は解らないけど、漢字なんか入っていると解りやすい。特に難しい文章の方が読みやすい」と。
シヴァが調べてきたのは、オオクラケンジたちの成人式近辺、昨年一月の上田近辺でのニュース、いくつかあった。火事、傷害事件、ひったくり、上田市内も何かとあったらしい。
火事はタバコの火の不始末、ひったくりは駅前で被害者はおばあちゃん。容疑者はすぐ逮捕されている。傷害は暴力団絡みのようで、どれも今回の内容とは関係なさそうだった。
翌日、翌々日まで見ていくうちに、サンライズは小さな記事に目をとめた。
「千曲川河川敷に男性遺体、不審死。
16日午前5時45分ごろ、上田市小牧の千曲川河川敷で『男性が倒れている』と近くの住民から110番通報があった。県警上田署によると、東京都豊島区上池袋二丁目の会社員徳益茂好さん(44)で、搬送先の病院で死亡が確認された。死因は心臓発作の可能性が高いが頭部に軽い打撲傷があったため、すぐ上の道路から転落したことも考えられるとして、同署は事件事故の両面で調べている」
この人について、もう少し調べてみて、とシヴァに告げる。
どうして東京の会社員が千曲川の河川敷で死んでいたのか。
「さっきのを返してくれたら明日調べてやる」
上から目線でシヴァが言った。
「チェックアウトの時ね。他には気になる記事ないな」
シヴァの抗議に全く動じることもなく、彼は成人式の記事にも目を通す。
「特に変わったことはなかったようだな」
次に、前回の調査について。当時の調査対象者が現在どこに住んでいるのか、安否確認だった。
「シヴァくん、何か発見はありましたか?」
わざとはっきりした日本語でそう尋ねると
「いやです」
いきなり文法上ありえない応答がきた。そう言いつつも、リストアップされた20名の名簿を出してくる。
「十代が3人、1人は判っている、サエキ・ミヨ。14歳。判定が『B』」
シヴァの調査なので、全部英語だった。書くのはやはりまだまだ苦手のようだった。名前もローマ字読みで記されている。
「あと二人が、マスダ・エミコ。13歳。判定は『c』三人目はカドワキ・タケハル17歳。判定が『B』、あれ、この子もBだったっけ?」
残りの17人についても、内容を読んでいく。
十代前の子どもについては、質問も難しかったのか判定は『C』と『測定不能』、大人の15人は一番成績の良い人でも『b』、あとは軒並み『C』ばかりだった。
「現住所はみな、確認できたのか?」
ここからはシヴァが得意とする分野。ただ、やはり日本語にはかなり苦労しているらしい。
「成績のいい方から順に調べたけど、カドワキ・タケハルだけどこに行ったのか判らなかった。いっときだけ親戚に預けられていたらしい。その家の名簿から選ばれたのがたまたま、彼だったんだって。血は繋がってるから、って」
「カドワキなんて苗字、集落にないよな」
「この子はねえ、オオクラという家にいたらしいよ」
集落には2件のオオクラ姓があったけど、鯉のいたうちもオオクラだよね、と簡単に言うシヴァをサンライズは揺すらんばかり。
「待てよ、」目を鋭くした。




