しなやかな少女 02
サンライズはメモにある調査結果にもう一度目を通した。
佐伯美世は前回調査対象に入っていて、中学三年だった。
結果は微妙な「B」。
十代の男子でもう一人、成績のやや良かった子がいたがそちらも「B」だった。この二人が他と比べてほんのわずかだが、先見の可能性を持っていたらしい。
佐伯美世にこだわる理由は、まずここだった。
行方不明者の捜索依頼が、異能力候補者からあったという、その点が。
「分からないから、調べてもらえるかと思って電話したんです」
「しかしね」ここが、彼らがもともと引っかかっていた点だった。
「どうしてうちのカイシャなんかに連絡したの? 警察じゃなくて」
「悪かった?」
「いや……悪いってことじゃなくてさ、何というか」
「オジサンたち、警察みたいなものなんでしょ?」さらっと口にした言葉に、二人は身を固くした。
「誰がそんなことを?」
「前に来たソネザキさん」
ドミンゴが何と言ったのか? とサンライズが尋ねると当時のことを思いだすように目を天井に向けた。
「ええとね、『困ったことがあったらこちらに電話して。マスコミ取材や何やで迷惑がかかった、とか誰かが不審者に声をかけられた、とかあったら……まあほとんどないだろうけど一応念のために。うちの所はケーサツみたいな取締りも少しはできるから』って」
みんなの前でではなく、彼女だけ座っていた時、そう言って直接名刺をくれたのだそうだ。
「女の子だし、少し心配だから……って。パパに渡したのとは番号が違うから、パパにはこれを渡さないように、ってね」
そうも言ったらしい。
「でもね、行方不明者の捜索は元もと管轄外だしね」
「それでも来てくれたじゃん?」
「まあね……でも本来のシゴトはそうじゃなくて調査を」
そこまで言ってから、サンライズはたと口をつぐみ、まじまじと目の前の少女を見つめた。
「見えていたのか?」
美世は、まん丸な目をことさらくりっとさせ、いかにも愉快そうにこちらをみつめている。
「そうか、呼んだのではなくて、オレたちが来るのが見えていたんだな」
「ちょっと、違うかな」おかしそうな顔をしたまま、美世が言った。
「来てくれるかどうか分かんなかったから、電話したんだよ」
サンライズもボビーも不思議そうな表情になったらしく、美世はその顔を替わるがわる見てまた楽しげな目になった。
「分かんないのよ、少し動くまでは。でも、オジサンたち来てくれたでしょ? 来てくれた、ってコトは、もう動き出したのよ」
「動き出した? 未来がある程度決まっているって言うのか?」
「その後は少し先までつながってんの。しばらくはね。ケンジが少し、見えてきたしね」
ここで美世は不思議な笑みを浮かべた。
『先見』は実在する……サンライズは確信した。
そしてそれには確実性と不確実性とが微妙に関連しあっているらしい。
すでに決められている未来と、何かが確定しないと見えてこない未来。
彼女にとっての分岐は、このオレたちだったんだ。




