表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/48

ママはどんな人? 02

「別に」サンライズはつい、そっけない返事。次のネギトロをつつくのに集中しているそぶりをみせる。

「まだお元気?」

「ええ? ハハオヤ? ああ、いるよ」それだけ言うと、後は黙々と寿司を口に運んだ。

「ねえリーダー」

 少しだけ、ボビーは声のトーンを落とした。

「前からそうだったが、奥さんやお子さんの話は少しはしてくれるけど、パパやママのことなんかは、全然教えてくれないのね。亡くなったの?」

「ハハオヤは元気だと思うけど、会ってないし」

 えっ? 電話もしてないの? ママに。そう問われてついムキになってしまう。

「実の母じゃあない。ホンモノの母親なんてもうどこにいるかも知らねえし」

 つい、口調が強くなる、束の間、素を晒してしまったようだ。

 元々はすごく弱い人間なのねアナタ、というボビーの同情的な目線が突き刺さり、よけいに目が合わせられない。

「そうだったの……」ボビーは静かにうなずきながらも

「でも本当のママじゃなくても、電話くらいはできるでしょ?」

 おせっかいなことをまた聞いて来る。

 オレ、ますますイコジな目になってるだろうか、どこかでぼんやり思いながら、少しでも冷静になるべくゆっくりと息を整えてから声に出した。

「別に、電話なんか必要ない。向こうだってそう思ってるさ」

「アナタ、今のママにそんなに嫌われてるの?」

 どうして弱りかかった所に更にそんなことを聞いてくるのか。

「アナタも彼女を愛してないの?」

「そういうわけじゃあない」はずみでつい箸を振り上げたせいで、何か緑色のかけらが目線の端に飛んだ。たぶん、ネギトロのネギだ。

 それを取るのもつい忘れ、言葉を継ぐ。

「オレが10歳かそこらから高校卒業まで一緒に暮らしてたし、オヤジが死んでからは少しは話しあえるようになった。あの人はずっと優しかった、オレのことも気にかけてくれていたよ。後になってからそれにようやく気づいたんだ、その時にはオレももう高2だったけどね」


 電話をしないのは、忙しいし、あっちも忙しいだろうから。

 目線を外したままそうつぶやくサンライズに、ボビーの静かな声が語りかける。

「ねえ、サンライズ」


 愛は目に見えないし、音にも聴こえてこないから、時々は相手に愛してる、って伝えるのも大切なのよ。

 もしお互いに大切な人だ、って思っているのならば、ちゃんと連絡してあげてよ、彼女にも。


「わかったよ」

 ようやく彼はそう答えた、なぜかこんな時はボビーには逆らえないような気がする。

 ボビーのすらりとしたうでが彼の眼鏡フレームに伸びる。

「あ」

 つい、そちらを向いた時にはすでに手をひっこめて、ボビーはつまんだネギの欠片をそっと、こちらに向けてみせた。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 まだ頑なな目をしたままのサンライズに、ボビーはにっこりとほほ笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ