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車を見せて下さい 02

「ああ……ケンジの従兄弟で、高校の時の同級生です」

 母親はまた、ぼんやりとした表情になった。

「ヨシアキです。ミナミ・ヨシアキ」


 ミナミヨシアキの連絡先を教えてもらう。


「この車」

 サンライズ、すでに車の運転席に収まっていた。

「エンジン、かけてみていいですか?」

「……はい、どうぞ」

 母親からはあまり歓迎されているようでもないが、とことん納得できるまで粘るしかない。

 彼はキーを静かに回した。

 なめらかにエンジンがかかる。


「それから誰か運転してます?」

 いいえ、時々エンジンはかけますが……とのこと。

「ふむ」

 CDは、ビールのCMか何かで流れていたやつだ。


 エンジンを切って、尚もじっと考える。

 母親は、今度は彼がこのままドライブに行っていいですか? と言いだすんじゃないか、と少し心配になってきたようだ。


「あのう」

「ありがとうございました」

 彼は、車から降りて

「何か新しくお分かりになったことか、後から気づかれたことでもありましたら、こちらに電話を下さい」

 と、『リサーチセンター 青木一晴』の名刺を渡す。

「ヨシアキくんにも、私たちから連絡させてもらうかも知れませんので、よかったら先にその旨、お知らせ頂けますか?」

「伝えておきます」

 平板な声で答え、彼女はろくに改めもせずその名刺をエプロンのポケットに入れた。


「大倉さん」

 彼は、つかの間その女性の目線を捕えた。

 が、追いつめてはいけない感があってすぐに自分から目をそらす。


「ケンジくんは、やはり御自分から出て行ったんだと思われますか?」


「はい」

 今までになく断定的な口調に、そばでぼんやりしていたボビーもはっとなって彼女をみた。


「そうなんですか?」

「ええ……こんな所から早く出て行きたい、ってよく言ってましたから」

 自分名義の通帳と印鑑も持ち出したらしい、と付けくわえる。


 庭でコイを珍しそうにみていたシヴァに声をかけてサンライズは屋敷から出た。


 道すがら

「ねえリーダー」

 ボビーがネクタイをようやく緩め、少し眉根を寄せながらサンライズに聞いた。

「どうしたの、急に探偵みたいなこと始めて。サキミの調査はしないの?」


「ボビー、あのケンジっていう子のこと、どう思った?」


「会ってないんだもの、分かるわけないわよ」

「違うよ」

 リーダーはいらいらとアクセルをふかす。

 大きな神社の前から、少し車が混み出していた。

「大倉ケンジがいなくなったの、家出だと思うか?」

「それが、サキミと関係あるの?」

「と思う」

「ワタシは、純粋に家出だと思うけどな」


 え、何で? とサンライズが聞くともっともらしくボビーは答える。


「通帳とハンコも持って行ったんでしょ? それに彼は20歳、立派な大人よ」

「ふむ」


 サンライズ、急にハンドルを切る。そして、

「何でそこで止まる?」

 前の車に悪態をつきまくる。

「リーダー、けっこう運転荒いわね」

 ボビーがひっそりとそう言って息をつく。どうやら

「やっぱり駅まで遠くても電車の方がよかった」

 という言葉を呑みこんだらしいのが分かった。

 シヴァはすっかり旅人モードらしく無頓着、顔色一つ変えずに移り変わる景色に目を奪われていた。




 南ヨシアキも、『先見』の調査対象ではなかった。元々、住んでいる場所も鳴木地区とは反対で、上田駅より北らしい。

会いに行った時は、コンビニでポテチの袋を並べ直している最中だった。

「っらっしゃいませぇ」脇目もふらず袋を並べながら、習慣でそう言ってからふと彼らを見上げ、いぶかしげに眉を曇らせる。

「あ?」

「南ヨシアキさんですか?」

「ああ、さっき電話くれた人」後ろのボビーとシヴァを珍しげにじろじろ見ている。

「ちょっと待ってて。あと10分かそこらで終わるんで、着替えたら駐車場行きますわ」

レジに、いい年のバアチャンがロールパンの袋を持ってよたよたと近づくのが見えた、と

「ぅありがとございまぁす」フットワークも軽く、駆けつけて行った。


 駐車場に出てきた時は、黒いジャケットに黒いジーンズ、コンビニで働く、というよりはコンビニにたむろしていそうないでたちだった。

「ケンジのこと聞きたいって、あんたら刑事さん?」

「違うよ」

「だよねえ」その、だよねえ、に何となく親しみをこめて(悪く言えば、なめてるのか?)ヨシアキが笑った。

「アイツと会ったの、成人式の日、会場の中でさ、それが最後だったからね」

「会場で、変わった様子は?」

「ケンジ? いや、ちらっと声かけた程度だし」

「その後一緒に飲みに行ったんじゃないの?」

「いやいや」あの飲み会はさ、だいたい小学校の地区ごとだし、オレ、ここのバイトすぐ入ってたしさ、だと。結構真面目に働いているんだ。

 始めはスカした、今どきのあんちゃんくらいにしか思えなかったが、話を聞くにつれ、なかなか純朴な田舎町の青年だという印象に変わった。

「髪長いとさ、上田の町なかだったらまだいいんだけど、ばあちゃんち方、そうそう大倉の家の方に帰ると、もううるさいんだわ、これが」

肩につきそうな髪をを片手でかき上げつつ、

「ばあちゃんに、オチムシャじゃあ、って箒で殴られそうになったさ、前にはね」

ハハハ、と明るく笑っている。

「ごめんごめん、で、何だっけ?」

 結局分かったのは、ケンジ失踪の翌日、大倉のおば、ショウコに頼まれてZを市民会館の駐車場から乗って帰ったこと。

「こう、ぐんぐん、って感じでさ、いい走りなんスよねえ」

ケンジからはもちろん、何も連絡は入ってないという。

「アイツ、めったに他人に車触らせないからね、モチ、オレも初めて」

連絡取れればさ、もし要らねえって言ったらオレにくれないかなあ、ヨシアキは自分の中古らしい軽にちらっと目をやって、明るくため息をついた。

「キミは新車を買わないのか?」サンライズが聞くと、

「うち、モータースなんスよね」これ店にあったのを借りてるだけで、車はやっぱ、金が貯まったらいいの買うっスよ、と答えた。

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