投降
なんかアネル大丈夫か?
窓の外で赤い炎が揺れている。ここからは少し遠い様だがそれでも人々が右往左往する様子が伺えた。誰か爆発に巻き込まれたらしい。血塗れの人が瓦礫の中から引きずり出された。
よく見えないが、多分。死んだ。さすがにやり過ぎだろう?いくらどんな手段を使っても良いなんて言われていても。この男は下手をしたら村人を全員血祭りに上げるかもしれない。
俺は悪びれた様子がなに一つ無い笑顔を浮かべている男に非難するように目を向けた。
「エル。お前さぁ。」
「大丈夫。この、姫様はのってくる。」
『ね?』
少女はユウトの肩を退かすように押すと真っ直ぐにエルを見据えた。顔色一つ変える事無く。それは、対峙するようだ。
「ユウト。行きなさい。」
彼女は男に振り向かず告げる。『異』を唱えることなど許さない。そう含まれているように聞こえた。だけれど思うに、そんな事承服出来るはずなんてないだろう?俺だったらます無理だ。
男は、顔を顰めたまま動かない。
「ユウト。」
「姫様。私はーー。」
「行きなさい。あなたは簡単な医術を知ってるでしょう?優しかった人達を助けなさい。」
ほとんど懇願する声に動じることは無い。ただ告げる。ユウトはぐっと唇を真一文字に結ぶと『了解しました』と上擦っだ声で走り抜けた。それをエルが止めないのは行っても行かなくとも結果は変らないと知っているからだろう。
溜息一つ。彼女は唇をゆっくりと開いた。
「……私が行けばこの国に何が起こるかお分かりですか?」
おそらく、行き着く先は『戦争』だろう。隣国アルドルはただこの国に入り込む正当な『きっかけ』が欲しいだけだから。
内乱で疲弊しているこの国の未来など知れている。
「さぁ?……でも、そんなこと俺らにはどうでも良いことだと思わない?国や人を儚んでやる余裕なんて無いもんでね。」
同感だ。
何一つ変わる事ない世界がきっと俺達一族の前には横たわっている。ゴミのような存在。どうでも良いのだ。本当にーー。
「思いません。」
少女はキッパリと言い切った。嘘ではない。そう思う。現実を知らないわけでは無いだろうに。それとも理想だろうか?
「アネル。」
突然呼ばれて俺は驚く。それはもう心臓が飛び出そうになるくらいに。そしてその後俺に向けられた笑顔は相当な破壊力を持っていた。
気づけば姫様の顔でなく、少女の顔をしている。
やばい。悶えそうだ。可愛すぎて。けれど、平静を装う。なんだか変態っぽいぞ俺。誰も気付いて無いと思っていたが、エルの刺さるような視線が痛い。
「どうしてぼんやりと立っているの?」
ふわりと笑う。俺もだがエルはよく分からなくて首を傾げた。
「せっかくユウトは行ったのに。」
ーーつまりは依頼を果たせと言うことだろう。あいつを追いやったのはわざとか。てか、あれよりエルを何とかして欲しいが。
ま、やってみるか。こいつ倒したら俺のランク上がるし。
俺は短剣を取り出した。エルは片眉を上げた。
「ん?やるの?アネル?でもーー。」
壊れてブラブラしている扉。その影にいる女を俺は確認して唖然とし、その行動が無理な事を悟った。
「……四番目のテイカ。」