秘密
くれぐれも。と少女に何度も念をした男を見送った後で、少女は何からか解き放たられたように軽く伸びをした。
それはまるで何かの小動物のようで可愛く癒される。
「でも、良かったのか?俺と二人になって。俺、一応あんたを殺しに来たんだけど。」
紅茶が無くなった。おかわりは……無理か。
彼女は菓子を手で探り当てると、一枚かじり不思議そうな顔を浮かべた。
「うん。だってこんな事に応じる殺し屋さんなんていないもの。馬鹿なのかしら?って思ったわ。」
「……。」
邪気の無い顔。これは怒るべきなのだろうか?いや、でも。確かに。ターゲットと仲良くお茶を飲むって俺だけかもしれない。
でも、誘われたし。紅茶美味いし。この人可愛いし。
……馬鹿でいい!
俺はそう思う事にした。
「だからね。ユウトと離したの。あの子すぐ始末してしまうから。」
始末。似合わない言葉だ。それに一切の躊躇を感じられない程に慣れているのだろう。唯一の救いは彼女が盲目と言う事だろうか?
ただ、俺も簡単に始末されてしまう感が、嫌だ。俺はあの男より強いと思う。まぁ、すぐに分かるだろう。うん。
「何か話したい事でも?遺言?」
「ううん。あの子が帰る前に殺して欲しいだけよ。」
それが何でもない事のように話す。なのではじめ何を言われているのか判らなかった。『ふうん』と返し後、一拍。俺は口に含んでいたクッキーを落とした。
「は?」
おかしな展開に付いていけない。大体、『殺して欲しい』なんて言われるのは初めてだ。この姫様言っていること分かっているのだろうか?なんか嬉しそうにニコニコしている。
「いいけど……ええと。意味分かってる?」
「ええ。問題ないわ。」
即答。
と、言われると殺し難い。なんか自殺の手助けしてるみたいで嫌だし。俺はポリポリと頬を掻いた。
おまけに姫様は気付いていないが窓の外から殺気がビシビシ伝わってくる。
「ええと。なんで、死にたい?」
「あ、その前に。目を開いても、いいかしら?」
盲目じゃないのかよ!と心の中で突っ込んでみる。少女はそんな俺の答えを聞く事などなかった。
ゆっくりと形のいい瞼が開いていくと俺は思わず、息を飲み言葉を失った。
「……え?」
金と銀の双眸が俺を覗き込んでいる。
俺達一族しか持たないはずの色。社会の低辺にいる俺達と頂点にいる王族。永遠に交わることの無いはずの色を何故かこの少女は持っている。その髪以外は。
「驚いた?」
どうしてか?と言う俺の言葉を察したかのように彼女は悪戯っぼく微笑んだ。




