お茶会
茶葉だけはいいものを使っているらしいです。
崩れそうな家の中は思ったより広く、整えられてる。
たが、さすがに一国の姫様が住んでいるとは到底思えない。
アンティークというよりは古く汚いテーブルセットの椅子に腰を掛けると重みで木が軋んだ。
壊れそうで怖い。
考えながら目の前に出された紅茶に手をのばした。
「毒は入ってない。」
姫の隣に立つ男はムッツリした顔で告げる。それはそうだろう。主を殺しに来た人間に好意など持てるはずなどない。ただそれと対照的に、当の姫様はなぜかご機嫌だった。
というか敵をお茶に誘うなど頭の中が少し変なのだろうか?
さすがお姫様。世間とは感覚がずれているのかもしれない。
「本当よ?ユウトの淹れる紅茶は美味しいのよ。」
満面の笑み。それだけで癒されるほど可愛い。にやけそうになる顔を無理やり持たせる。
俺は紅茶を口に含んだ。
「美味い!」
思わず、叫ぶ。
この鼻孔から抜ける豊潤な薫り。口の中に広がる絶妙な甘みと酸味。こんな紅茶を飲んだのは初めてだ。
「だって。良かったわね。」
「……。」
少女が笑いかけるが男は顔色を崩す事はしなかった。少女には見えて無いにしろつまらない野郎だ。
俺はお茶菓子のクッキーをかじると、これまた美味い!
まさか男が作ったのだろうか?
考え無い事にした。
「で?あんたら今までこの村に?」
どうやら村人には『姫』と言う事は告げて無いのだろう。バレてしまえばこんな暮らしにはならないというか、厄介者ですぐ追い出されるだろう。
俺のような輩をはじめ色々な所から追いかけられるだろうから。現に少女のこ慣れた感がそれを示している。
「ええ。内乱で焼け出された孤児としてね。ユウトは兄と伝えてあるわ。」
孤児は珍しくない。いわば俺も孤児だ。内乱で両親は死んだ。こんな俺の未来を変えようとして。
そんなことで死ぬなんてバカらしい。
と言うか、『兄妹』にしては似てないし、妹に付き従っている兄貴って気持ち悪いし、違和感しか無いが。普段は違うのだろうか?
「私は目が見えないから、畑はユウトに任せて子供に知識を教えているの。」
なんだか羨ましいくらい幸せそうだ。今から俺に殺されるという不幸は微塵も感じられない。俺は菓子をかじりながら気のない返事をした。
「あ。ユウト。そういえばマキナさんがミルク早く取りに来て欲しいそうよ?早く取りに行っておあげなさいな。」
「……。」
彼はあからさまに嫌な顔をした。あたりまえだ。というかこの姫様緊張感無さすぎるだろう。何故この状況で日常会話。
当然、当人はごく普通だった。
「大丈夫よ。まだ死んだりしないわ。そうでしょう?ね?アネル。」
まぁ。依頼をこなせば問題ないし急いでいない。それに。
かわいいは正義だ。
再び満面の笑をゲットした俺は心の中でガッツポーズをした。
「当たり前さぁ。」
もはや誰?と言われそうな口調で男に言うと彼は屑を見るような視線を俺に向ける。おまけに殺気まで付けて。
「わかりました。なら、参ります。しかしくれぐれも。」
心配そうな横顔。よく見たらイケメン(俺より劣る)だ。
「ええ。大丈夫。アネルは案外良い人みたいだから。」
案外は余計。俺は基本良い人だ。言われた事は初めてだけど。少しくすぐったくって、思わず、照れを隠すように苦笑いをした。