首都グランエラ
アネル視点で。く、暗いよぅ(泣)
俺達は炎の中をひたすら走った。道端に転がる死体を踏みつけながら。
まともな道などありはしない。俺は立ち塞がる大人を躊躇なく殺した。
捕まる事は死を意味していたから。
殺させはしない。姫様だけは。
そう思った。
街は何もかも元に戻っていた。血の臭いも、喚き散らす人々もいない。その代わりに幸せそうな母子やカップルが俺の横を笑顔で通り過ぎていく。
俺は懐かしい所に立っていた。
とは言ってもあまりいい記憶は無いのだけど。いい記憶と言えば姫様と過ごした時間だけだろう。
とにかく。目の前には王族が歴代愛し守り抜いた美しい城が立っていた。白鷺が両翼を広げたように美しく佇んでいる。その前には広い庭園があり、バラが咲き誇っていた。
城自体は暫定政府に使われているそうだが庭園は人々に開放されているらしい。その中を子供が駆けずり回り、大きな噴水の前では大人がのんびり談笑していた。
優雅な午後の一時といった所だろう。内乱の面影など少しも感じられない。あるとしたら噴水の前にある慰霊碑ぐらいだろうか?
俺は近くのベンチに腰をかけ空を見上げた。
青い空にゆったりと雲が流れている。
どうやらアルドルの特使はこの街から少しだけ離れた元貴族の別荘に泊まってるらしい。姫様がいるかはまだ不明で調べてもらってーーアネルは嫌だったらしいが結局本当の事を話さざるを得なかったーーいるが。
「姫様。」
「ったく。どんだけ姫様が好きなんだって話だよ。俺なんかカノに報酬として店の手伝いさせられたのに。」
いつの間に来ていたのだろうか?隣に目つきの悪い少年が少しだけ膨れた表情で自然に座った。赤い髪、金と銀の両眼。彼がここに現れると周りが一気に遠巻いた。もちろん目付きが悪いからでもなく、ただその特徴的な一族故だろう。気持ち悪いのか何なのか俺にはよく分からない。それは城の外にあまり出なかった為なのかも知れないし姫様と一緒にいた為もあるだろう。
とにかく、それを彼は気に留めることも無い。俺もそんな事はどうでもいいがその派手な両眼は姫様を思い出す。
絶対護らなければならなかった彼女。
いまごろーー。
「聞いてるのかよ?」
言われて俺は慌てて顔を上げた。握りしめていた拳を解いて溜息一つ。考えに浸っているわけにはいかない。
よく見ると彼の顔は殴られたように腫れている。どうせ酒場のゴロツキと悶着を起こしたのだろう。見ていると喧嘩が好きなようだ。
こいつがどうなろうと知った事ではない。俺は姫様さえ助けられればそれでいい。
「で?情報は?」
彼は勝ち誇ったように笑顔を浮かべてみせた。
いい知らせだと俺は思った。




