酒場にて
気付いていると思いますが、アネルは自称イケメンです。
俺達の一族は各地に支部を持っている。もちろん公ではないが。
それは酒場であったり、宿屋であったりすることが多い。そこで俺達は情報を得て、依頼を受ける。
それはこの首都も例外では無く、特使が来ているという細かな情報を得る為にある酒場に来ていた。
真昼間から酒臭く、訳ありの男を達がたむろしている陰気臭い酒場。特有の赤毛の者からそうでない者もいる。ようはこういった場所は裏社会の人間の溜まり場なのだ。
男達は俺達に見向きもしない。
が。
「アネルぅ!」
唐突に甲高い声と共に背中に思い何かが勢い良く乗っかった。俺は体制を崩しそうになりながらそれに目を向けた。
「カノ。」
少女。カノ。十四歳。酒場には似つかわしくない健康的な少女だ。もちろん彼女も一族の女。ショートカットの髪は赤く燃えているようだ。ただその眼は灰色だが。今や一族の中で全ての特徴を持つ俺の方が珍しいらしい。
そして彼女は俺の眼の愛好家だ。そう。眼だ。たまに抉り出されるのではと思う。
可愛い少女だが怖い。こんなのにモテたくない。
「相変わらず綺麗ね?」
嬉しそうな彼女を引き剥がしながら俺は言う。
「う……うん。そ、それよりなんか隣の国の情報入ってねえ?」
少女は酒場のマスターだ。と言っても倒れた父親の代役だが。とにかくマスターの元には色々な情報を知っている。
「うーん?どうして?というか、この人は?」
ようやく気付いたらしい『カッコイイ』と呟いてユウトを見た。いや、何度も言うが……。
「ユウトだ。ダチだ。」
説明面倒くさいし、調べようと思えばいくらでも調べることができるだろう。彼女は『ふぅん』と答えている。まぁ、よく考えなくても怪しいが。
「とにかく、特使が来ているだろ?何処だ?泊まってるとこ?」
俺としては早く終わらせたい。ほとんど寝てないし、野宿だし。これ以上こんな生活は嫌だ。なぜ隣の男が小奇麗で平然としているのか教えて欲しい。
「だから。どうして?何かの依頼って言う訳でもなさそうだし。隣の国へ闇討ちはこまるわ?戦争でもしたいの?」
「いや。えっと。」
依頼失敗して、逃げられたも同然。それを追いかけてます(実際には違うが俺に取ってみればそう)なんて悔しくて言えない。思わず、言葉に詰まる。
ただ俺の代わりに口を開いたのはユウトだ。
「それは俺が依頼した。俺の護衛として来てもらって居る。」
なんだか無理がある。なよなよしているいかにも『坊っちゃん』ならまだしもどう見ても鍛えている姿態。剣も腰にぶら下げているし。当然不審そうに彼女は彼を見ていた。
「友達じゃ無いの?」
「友達。友達。依頼を受けた時から友達。うん。」
自分でも嘘くさいと思うし、ユウトも顔が些かに引き攣っている。カノは両方を見比べながら溜息一つ。
「分かったわ。教える。」
「カノっ。さすが。」
「ただし。」
と彼女はニコリと微笑んだ。
「戦争にでもなったらその眼、あたしのコレクションにしちゃうんだから。」
……はい。
だか、なんかそれを望んでそうで怖いが。




