桃の缶詰
第二回小説祭り参加作品
テーマ:桃
※参加作品一覧は後書きにあります
早く元気になってね?
これは、少年が生きていた時間の、とても救いようのないお話――――――――――――
少年は病院のベッドで寝ていた。
死に直結するような不治の病、と言うわけじゃないが今はそれなりに思い病気を患っており、病名を言えば大抵の人には同情してもらえるような、そんな病気だった。
家族や友達、親戚やら色々な人が少年の病室に来てくれた。少年はとても嬉しかったし早く治そうと頑張った。
そんな生活から数週間が経った頃、となりに一人の患者が新しく入ってきた。
母親の話だと入ってきたのは高校生の女の子らしい。中学生になったばかりの少年にとっては高校生と聞けば十分大人だろう。
そして母親が帰ったあとに。
「初めましてっ短い間かもしれないけど、これからよろしくね!」
少年は、その日入ってきたばかりの少女に遮蔽カーテン越しにそんなことを言われた。
少年が急な接触にあたふたしながらなんとか返事をすると。
「うん! お近づきのしるしにはいこれ!」
きょとんとしている少年を気にせず、彼女がカーテンをあけて渡してきたのは小さな桃の缶詰だった。
その時の彼女の顔は、誰もが見とれるほどのきれいな満面の笑みを浮かべていた。
その日の夜に食べた桃缶は不思議な味がした。
「君はどうしてここにいるの? 怪我か何かかな?」
僕はどうしてそんなことを聞くのか少し気になったけど、とりあえず彼女の質問に答えてあげた。
そしたら彼女が。
「そうなの!? そ、そそそそそそれって大丈夫なの!?」
ものすごくあたふたしてた。
少し驚きかたが大袈裟だなぁって思ったけど一応大丈夫だよって教えてあげた。すると少しほっとしたような顔をして。
「よ、よかったぁ……君がいなくなったら私も悲しいもん……」
心配してくれてるのかな……? そうだったら嬉しいけどな……そんな何でもない一言に一喜一憂したりしているのが自分でわかってた。
「そっかー……じゃあそんな君に励ましの意味を込めてこれをあげよう」
目を細めて(-w-で桃缶を渡された。って言うかまた桃缶……
「私が桃が好きでねーお母さんがよく持ってくるんだ~ちなみに桃の花言葉は『天下無敵』だよっ」
それって病気と関係あるのだろうか……と思ったことは黙っておいて普通にお礼を言っといた。
あの人から貰った桃缶はこの前より甘かった気がした。
それからというもの彼女からよく桃缶をもらうようになった。
そんな他愛もない話をしたりして、いつの間にか1ヶ月が経っていた。
あの人としゃべるのはとても楽しかった。僕はあの人と一緒にどうでもいい世間話や、相談にのってもらったりしてるうちに、あの人と話すたびに、あの人のことが好きになってったんだと思う。
そんなある日。あの人が退院する日が訪れた。
「私もこれで退院するけど、やっぱり君のことが心配だなぁ……」
そんな大袈裟な。そう言って笑い飛ばしたけどそれでも彼女の顔は晴れなかった。
「私が退院してもまた君に会いに来るから! それまでいなくなっちゃダメだよ! 約束してね!」
真剣な顔をして迫ってくる彼女はやっぱり大袈裟だ。わかったよ約束すると言って彼女と指切りをかわした。
「うん、約束! じゃあまたはいこれ!!」
そう言って渡してきたのはやっぱり桃缶だった。『それじゃあまたねっ!』と言ってあの人が去っていったあとに食べた桃缶は
やっぱりとても甘かった。
それから毎日のようにあの人が病室に来るようになった。
学校のこと友達のこと。またいっぱい話すことができた。学校があるので話せる時間は減ったし、自分の気持ちを伝えられてないのは心残りだったけどそれでも楽しいのは変わりなかった。
自分の気持ちを伝えられてないのは心残りだったけど
お医者さんも症状がよくなってきていると言っていた。
けれどそんなある日。
僕はいつものように夕日の沈む時刻に、いつものように彼女と話していた。
「あははは、そうなんだ~……ってあれ!? もうこんな時間!?」
相変わらずマイペースだね。と笑うと『むぅ……そう言われると否定できないよぅ……』と言って頬を膨らませていた。
「じゃあそろそろ帰るね。……あ! あとごめんっ!! 明日と明後日は来れないんだ!!」
その時、特に気にもしなかったけれど。
「どうして?」
と、聞いてしまった。
ゲームで言えばこの選択肢が運命の分かれ道だったのだろうか。僕はそれを選択してしまった。
「えーっと……私、そろそろテストが近いもんで……ほら私ってそんなに勉強できないからね、彼氏に教えてもらおうと思って」
その瞬間。
バギン。と少年の身体の中でナニカがコワレタ音がした気がした。
「じゃあまたねっ早く元気になってね!!」
そしてまたあの人は桃缶を僕に置いて帰っていった。
けれど結局、僕はその桃の缶詰を食べることはなかった。
それから少年の容態が急変したのは二日後のことだった。
少年が担架に運ばれながら手術室に行く途中。彼女が息を切らせながら走ってきた。
「――――!! ――――!!」
彼女は少年の名前を泣きながら叫んでいた。
そんな彼女に、少年は最後に自分の想いを伝えようとして口を開けようとして――――――――――――――――やめた。
万が一少年が死んだ理由を自分が作ったと思ってしまったら。いや、気づいてしまったら。
そんな重荷を彼女に背負わせることはできない。そう考えて開きかけた口を閉じた。
お姉ちゃん――――
代わりに少年は口を開いて言った。
「桃の、花言葉……知ってる? 自分で、調べたんだよ……『私はあなたのとりこ』も、そうなんだって……」
そう言った少年のだらんとした服の下から桃の缶詰が落ちた。
もし落ちた缶詰を拾って食べた人がいたならばきっとこう言っただろう。
すごく苦かった、と。
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えーっとどうでしたでしょうか。あと2ヶ月で小説書き始めて一年の作者が書いた初のBad End。
お暇でしたら感想とか下さい。