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* prologue * 喪失の5月。
あたしは疑ったことがない。
と、言い切ると、ちょっと語弊があるかもしれないな。
素直、というのもちょっと違うし。どんな状況も「そういうものなのかな」と、受け止めてしまう。友達には「信じやすい」「騙されやすい」なんて言われるけれど。
出会ってすぐの頃、「彼」はこう言った。
「それは、単なるあきらめだよ」
風の音が、やけに大きい夜。ビルの窓がガタガタ揺れてた。
その時すら、あたしは「そういうものなのかな?」って受け流した。
数年後、「彼」が正しかったと身を以て知ることになる。
月島夏子。25歳。OL。
家族は、両親と弟。平凡な中流家庭に生まれた、いわゆる庶民。
平凡な顔、平凡なスタイル、平凡な能力。すべてが平均点。
社会からはみ出したこともない。いじめられたことも、いじめたこともない。優等生になったことも、劣等生になったこともない。
仕事は、企業の総務。誰にでもできるルーティンワーク。
彼氏は……いた。ついさっきまでは。
ここから痛い描写が連続いたします。苦手な方はご注意ください。
更新は遅めです。