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Look at the Sky

作者: 神無月 鞘

 空を見上げるのが好きだった。



 まっ白な雲が散らばっている空も、雲ひとつない青空も、

 夕暮れ時の紅く染まった空も、幾千の星が瞬く闇夜の空も、

 とにかく空を眺めるのが好きだった。


 どんよりと曇った梅雨の空でさえも、大好きな空の一つだった。



 けれど、私が本当に好きだったのは、空じゃなかった。


 私の隣で、空を眺めている彼のことが好きだったのだ。

 彼の隣で、彼と一緒に眺めている空が好きだったのだ。




   ――ずっとそのままでいられたら、どんなにしあわせだっただろうか?



      ☨



 あの日から、私には空を見上げる理由ができた。

 彼が、空の向こうへと旅立っていってしまったから。


 彼に会いたかった。

 もっと彼の声を聞きたかった、もっと彼と笑いたかった、

 もっと、もっと、もっと彼と――


 願いは止まることなくあふれ続けた。



 してほしいことがいっぱいあった。してあげたいこともいっぱいあった。

 一緒にやりたいことだって、もちろんいっぱいあったのだ。


 でも、それはもう叶うことはないだろう。

 彼はもう、私の隣にはいないのだから。



 あの日、空は彼と私とを隔てる壁となった。



 青くて、綺麗で、透明な、でも向こう側は絶対に見せてくれない。

 そんな、見えない壁に変わってしまった。


 彼の姿は、もう見られない。

 彼との記憶は、もう増やせない。

 彼と空を見上げることは、もうない。



 あなたが旅立ったあの日、私ははじめて空を恨んだ。



      ☨



 つらい時は彼と泣いた、嬉しい時は彼と笑った。

 過ちは彼と悔み、成功は彼と喜んだ。


 私の隣にはいつも彼がいた。彼の隣にはいつも私がいた。

 そして、私たちの上にはいつも空があった。


 けれどあなたはもういないのだ。

 私のそばに戻って来てくれることは、もうないのだ。

 残ったのは私と、空だけ。



 あなたが旅立ったあの日、私ははじめて一人で空を見上げた。



   ――ほら、見てごらん。綺麗な空だ。



 声が聞こえた気がした。







 涙が止まらなかった。







      ☨



 それでも私は空を見続けた。

 彼とのたくさんの思い出は、すべて空とともにあったから。


 空を見ていると思いだすことができる。

 彼の姿を、彼の声を、彼の笑顔を、

 ――彼の、ぬくもりを。



 悲しみに暮れて、ただ泣くことしかできなかった私に

 それを思い出させてくれてのは、空だった。



   私は空が好きだ



 会わせてはくれないけれど、思い出させてくれた。

 彼との思い出は、悲しいことばかりじゃなかったはずだ、と。

 嬉しい思い出が、楽しい思い出が、いっぱいあったはずなのだから、と。


 それを私に教えてくれた、


   そんな空が私は好きだ。





 だから私は今日も見上げよう






   ――彼と会うために、空を、見上げよう。








 大切なものは、いつもあなたのそばにあるものですよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 彼氏と彼女、幻想的な景色というか、そういうのが好きな者同士だったのですね。 遠距離恋愛ではなくて、まさか……
[良い点] とてもきれいな文章で、「簡潔」というものをきちんと理解しておられると感じました。おそらく感覚的に心得ているのでしょうか。 わたしの波長とぴったりでした。 あと、すてきな空、大切な空というも…
2012/10/14 22:02 退会済み
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