最終話
それから数日も経った後、ある一人の女性が私の病室を尋ねてきた。
たった一つの手紙を持って。
「突然すみません。露下亮をしっていますか?」
年齢は、私の母と同じくらいの歳。40を過ぎたか過ぎていないかくらいだろう。
「はい……」
「私、亮の母です。先週辺り、その亮が病気で亡くなりました……」
「えっ……」
いつも。
いつもピンピンしていて、いつも笑顔で私に不安にさせないようにというようにしてくれていた亮が、会わなくなってから数日後になくなったという。
でも、どんな病気で?
家にたまに帰れると言っていたのに?
それくらい元気があるというのに、どうして急に?
「解っていたんです。そんなにも命がもつ子じゃないって事は。でも、ここまでもったのは凄く奇跡だって……。それで、よく話してくれていたらしく、あなたのところに来ました。それと、病室に……宛先があなたの手紙が置いてあったのです。あの子もきっと、もうそろそろ自分が危ないという事をわかっていたんだとおもいます」
そう言って渡された手紙。
震える手元。
自分でも驚いたし、目頭が熱い。
いけない。
涙が……。
まだ読んでもいない手紙に、ポタリと涙が垂れた。
「読んでみても……構いませんか?」
「是非……」
ゴソゴソと封を慎重に開け、中から数枚の手紙を取り出した。
『元気ですか? 亮です。
暫く会う事が出来なく悲しいです。でも、こうなる事は知っていました。ずっと、わかっていました。
好きです。
そう伝えてからコレを見るまで、何日掛かるんでしょうかね?
でも、それでもいいです。遅くても、いいです。
小さい頃からの病で、そう長く生きられなくて。
よく実家に帰るのは、もう、会う事が出来ないし、あえなくなるのがわかっているからと、行く事を許可してもらえました。
最初は、実家に帰るつもりなんかなかったです。でも、あなたに会ってから、実家に帰ってみるのもいいかなって思い始めました。最初は、あなたに花を届けたいからという理由からです。
凄く迷ったけれど、その選んだ花を、好きだって言ってくれた時は凄く嬉しかったです。
笑顔もステキで、ずっと見られたら。と思いました。でも、見れなくなる日が来る。その前に、返事だけでも貰いたかったです。
でも安心してください。
化けて出る事まではしないと思います。
好きです。それを、毎日言いたかったけれど、必要以上に言うと迷惑かな? と思いました。でも、好きです。
でも、その代り、僕の恋は叶わなかったけれど、恋をして僕の分まで恋愛というのを楽しんでください。
恋愛というのはいいものだと思います。それと、封筒にネックレスを入れておきました。僕のお気に入りです。気に入らなかったら捨ててくださって構いません。つけてくれると、嬉しいな……と。
でも、忘れてください僕の事は。それでいいんです。
でわっ。サヨウナラ。
あなたに会えてよかったです。
あなたに恋をして、本当によかった。』
「なんだよ……本当にお別れみたいじゃないか……」
その手紙を握り締めながらも、封筒からネックレスを取り出した。
かわいくて、捨てるなんて勿体無くて。
止まらない涙が、何故か私の目尻から流れていく。
「こんなにあなたのことが好きだったのに……どうして」
気付かなかった。
こんなに亮の事を愛していただなんて。
「遅いよ……私……」
もっと早くに気付けばよかった……。
もっと早く、自分の気持ちに気づけばよかった。
もっと早く……妹の事を忘れればよかった……。
それから、私は亮の分まで生きるため、頑張った。
自分から積極的に外に出たり、できるだけ歩くようにして、自分の病と闘うようにした。
私の病は、ほとんど心にあるというのだから、治そうと思えば治す事が出来るはずだ。
「亮……」
「ここよ」
案内されてきた墓。
綺麗で、いつか私にも見せたような笑顔が、飾られていた。
ゆっくりとその場に、花を飾った。
「亮……愛してるよ。私、あなたの分まで必死に生きる事にしたの。でもね? あなたの願いは、一つ叶わないの……。私、あなた以外好きになれないみたい。だから、私が他の人との恋愛は、諦めて? っていっても、あなたの手紙を一番最初に見た日からは、もう二十年は過ぎてるかな? ごめんね? 来るのが遅くなって」
ゆっくりと立ち上がり、私は再びその墓を見下ろした。
綺麗で、私が大好きな笑顔は、誰にも負けないくらいステキだった。
「大好きです。亮」