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第2話

 

 

 そんなマンガのような出来事までは、そんな長くはかからなかった。

 

 

 

 

 いつもどおり、ささやくように鳴るカーテンの近くで、横になりながら小説を読んでいた。

 小説というのは飽きない。

 作者一人ひとりが、違う意見を出して、それで尚且つ話の進みが違う。

 根本からして違う所為か読み応えがあって、その場の雰囲気を読み取るのが楽しくて仕方がなくなってしまった。

 結局、小説というのは音楽と似ていた。

 一人ひとりのピアノの弾き方や、リズムの取り方などが違うのと一緒で、感じ方が違う。

 何かと比べることもあっても、それでも楽しいと思えれるこの一人の時間。

 『時間』というものを忘れさせてくれる。

 

 

 そんな『時間』を露わにするかのように、珍しくもこの病室の扉がノック音を立てた。

 少し弱くて、何か躊躇っているようなノック。


「はい? 入って来ていいですよ??」

 

 少しばかり戸惑いながらも私は答えた。

 母が言っていた、あの男の子。だとしても、私は出来るだけ動揺しないで、いつもどおり軽く冷たく接していけば、向こうから私に会う事はなくなってくる。

 冷たく接されて、それでも一緒にいようと思う人は、そんなにも多くいるというわけではない。本当にごく一部の人だけだと思う。

 ゆっくりと躊躇いがちに開くその扉。顔を出してきたのは、本当に見た事が無い男の人だった。

 年齢は同じくらい。

 ここの病院のパジャマを着ているところ、きっとこの男の人も患者さんなのだろう。

 中に入って来て、後ろ手で戸を閉めた。


「あの……始めまして。俺、露下つゆしたあきらっていいます」


「この前花をくれた……?」

 

 母が渡してくれた花。

 飾ってくれたし、結構目に付く花だ。この病室にあっていて、なんとなく花を好きになれたかもしれなかった。

 なんとなくだが、そんなにキツイ匂いを放つことも無く、それで尚且つ薄くホロ甘い匂いが入ってくる。

 どうして男の人がこんなにもいい花を選んでくれたのだろうかとも、何とか考えたような気がする。


「あっはい。あの時は少し失礼なことしてしまいましたね。ちゃんとこの手で渡したかったんですけど、やっぱり勇気が出なくて。でも、それじゃあダメだなって思って今日改めて……」


「ありがと。この花気に入ってるの」

 

 薄く微笑んで見せた。

 すると、漸く緊張が少し解けたのか、肩の力が少し抜けた気がした。こんなにも私に話しかけて、緊張するような人は初めてだった。

 いつも違う意味で緊張している様子だった。

 どういう風にすれば好印象を取れるかとか……。でも、この男の人は何か違う。私を直接見ている感じで。

 髪はショートヘアー。

 正面から見れば、耳より少ししたあたりの長さ。


「よかった。花とか嫌いだったらどうしようかなっておもって。俺の家、花屋やっているから、親と一緒に選んで」


「うん。最初は特に好きでもなかったんだけどね? この匂いとか……いいなぁって。でも、何で私に?」


 漸く本題に入れるかなと思いながらも、少し下から見上げるような瞳で見つめた。


「……えっと……前に病院の中で見かけて。なんか周りを見るような素振りはしないから、人と接するのが苦手なのかなって思って。それで何回か遠くから見るたびに気になって……それで」


 確かに、男性恐怖症。とまではいかないし、そんなに酷く何かがあるわけではないが、周りの人と接するのは苦手だし。


「そう……。あなた何歳なの?」


「あっ……俺は17です」


「私は16よ。高校二年生」


「あっ同じです。高二」


 やっぱり見た目的にもそうだとは思った。


「へぇ。この花……親と一緒に選んだって言ってたけど、あなたもここの患者じゃないの??」


「たまに家に帰れるから……」

 

 質問に、少しばかり戸惑ったような答えを出された。

 そんなにも戸惑う事かな? と思ったが、やっぱり答えたくなかったのか、それともふかい何かがあるのだろうかと思いながらも、軽く納得してしまう自分がいる。

 


 

 適当にその後も会話を続け、一時間ほど経つなり、話もそれなりに途切れ、またきますという、少しほほえましい笑顔で言って、私の病室から離れていった。

 少しばかりそれにホッとしながらも、何か、いつもとは違う空気を吸った気分で、何か新鮮なものを感じたし、少し一時間が早く感じられた。

 そんなにも多くの話をしていないはずなのに。

 でも、まだあの人を信じてはいけない。

 そんな気持ちが、私の心の中をグルグルと、気持ち悪くなるほどかき混ぜていた……。

 

 

 

 

 

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