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そとにでてみよう

僕は寒さが身に染みる

そして孤独感が更なる寒さへの追い打ちをかける

そんな街中にいた


様々に行き交う雑踏をかき分け

会いたくもないものに会わなくてはいけないらしい


人間とは本能的に嫌悪感を抱く場合があるらしい


出かける前に押し付けられる重苦しい用事


僕の本能は間違いなくその用事に嫌悪感を示していた


これは覆しようのないものである


僕は好き嫌いで物事を判断はしない

そこまで子供ではないのだ


もちろん判断の一基準になることは否定はしないが


しかし、世の中にはそういう基準を超える程の存在がある


それが本能からくる嫌悪感だ


これは本当にどうしようもないものだ


僕がどうあがこうとも逆らうことは出来ない


恐らく、神様がいるなら

それは神からの警告ともいえよう


命の危機や

これから自分の身に降りかかる災厄

そういったものを嗅ぎ取っているからそういう覆しようのないものがあるのだ


命の危機から連想するが

痛みも同じだ


自分の命に対する警告


痛みは学習だ

この世のどんなモノよりも優れた学習装置だ

世の中の愚かな行為に痛みを伴えば人間は正しき道に進めるというのか

そして、それがなければ人類は学べない愚かな存在なのだ


さらに救いようがないことにそんな優秀な学習装置ですら人間は

慣れる

という行為で優秀な学習装置を無価値にしてしまえるのだ


そうして、麻薬…モルヒネのように更なる痛みでしか学習できなくしてしまうのだ


これを適応とかそういう言葉で片付けてしまう人もいるだろうが

僕はそうは考えない


そして僕も残念なのかどうなのかそういう人間の一人で

慣れるという愚かな行為に身を堕としてしまっているのだ


これも抗えない本能


しかし、僕は神の警告を無視しながら目的地にたどり着こうとしている


目の前…足元には一筋の線が引かれている


――――絶対防衛線――――


ここを一歩出れば僕はこの街の加護を失い

自分自身の力でしか生き残れない地になるのだ


僕は意を決してその外の領域へと足を踏み入れる


分かっている


眼前には雑居ビルほどの大きさの



―――――海月―――――


どうであろう


一歩出たら

そこには万有引力に従えば

ゼラチン質で

とてもではないが自重にすら耐えられるような姿をしていない生き物が

燦然とそびえたっていた


僕が知っている世界はもうそこにはないのだ


コイツはこの大気で満たされた空を浮かんでいる


こんなバカな話があるであろうか


僕は本能的な嫌悪感に従えば良かったのだ


そう…あの線を踏み越えずに

のうのうと加護の下に暮らせば良かったのだ


そして、僕の知っている世界ではただ流されているだけの生物だったはずのコレは


触手をあらんかぎりの力で鞭のように振り回し

周囲を破壊している


とんだSFだ


恐らくこれを見た人類は

異星人の侵略だとか

生物の超進化だとか言うに違いない



そして自衛隊や軍隊が模型のように破壊されていくのが目に浮かぶ


僕はいたって冷静だ


これだから人間っていうものには嫌気が差す


慣れる


適応する


これらの言葉を実感してしまう


こいつの触手が届かない安全圏から眺めている

もちろん、いつこちらに向かってくるかは分からない

あんな触手に巻き込まれたら僕の身体なんて


豆腐を潰すより簡単だと思う


前述で話した

異星人の侵略や生物の超進化


そんな予想をたてた君たち


残念ながら不正解だ


こいつらは自然発生的に表れたのだ


そうして、不完全なままこの存在してしまっただけだ

こいつらは自分の満たされぬ部分を埋めるかのように存在している


思考も出来ぬまま

本能に身をまかせて


そう


本能とは神様のお告げのようなものだ


自分の中にありながら

自分の意志とは関係なく

自分のために世話を焼くとてつもなくおせっかいな神様だ


じゃあ人間の意志とはなんなのであろうか?


自分には否定できない部分が自分自身を導いている


それじゃあここにいる僕はなんなのか


それこそそこで周囲を破壊しまくっている海月となんら大差はないのではないか?


まるで無意味な自問自答


そんなモノに答えを出せるのだろうか?


そう


これから迎えに行こうとしているのは

そんな自問自答に答えを導き出せるかもしれないような存在なのだ


いや

こちらから迎えに行かずとも

あちらからやってきたようであった


最悪だ


僕の目の前の海月は尚も猛威を奮っている


そこに砂煙を巻き上げながら近づく何かがいた


触手が触れるか触れないかのところまで近づくと

その存在は大きく飛び跳ねた


それこそ


雑居ビルほどあろうかという海月を飛び越えんばかりの跳躍力で


そこにいたのは人間サイズの…

いや、人間という単語はこの世界になってからあまり使いたくはない


しかし、便宜上で『ヒト』と呼ぼう


その『ヒト』は跳躍からの勢い海月のカサ、頭の部分に強烈な一撃を喰らわす


普通であれば大砲の玉でさえ弾いてしまいそうな海月の頭は一撃の強力な衝撃を受け流すことができずにそのゼラチン質な体を四方に飛び散らせた


ここで一つ言うことがあるとすれば

圧巻といわずに何と言おうか


海月は体液をぶちまけその大きな体を地面につけた

凄まじい地響き

ビルが倒壊するのと同じようなものだ


砂煙を巻き上げまき散らした体液が雨のように降り注ぐ。


僕はその雨をモノともせずに大きな化け物に近づいていく


その海月の中心にいたのはさきほどの『ヒト』


その姿をやっと確認出来る


そうまるでヒトのような『ヒト』


その細い手足

それはまるで


ヒトのような『ヒト』


女性の形を成している


そして『ヒト』はその顔に

笑みを携えていた


「今日の~お仕事~終わり~♪」


まるで一仕事終えたような口ぶりで歌を口ずさむ


ヒトのような『ヒト』


その顔、着ている衣服は他の生き物であろうと思われる赤い赤い血にまみれていた


端正な顔立ちと血というのはどうしてこうも似合ってしまうのだろうか

不謹慎だと思う


不謹慎?


いったいこのイカれた世界で誰に配慮する必要があるのだろうか


素直に


美しいと言ってしまおう


そして、それとともに本能の嫌悪感がむき出しになる


その『ヒト』はこちらに顔を向ける


「あ~♪雷太だ~!迎えに来てくれたの~?ありがとう~」


僕はその声を聞こえないフリをして踵を返して街に戻る


「待ってよ~!!かえろ~!!」

僕の後ろをついてくるのが分かる

僕の用事はこれで済んだ


こんな場所

そして

こんな『ヒト』

世界で数少ない人類である僕は一秒たりともこの腐った世界と時間を共有したくないのである

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