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楽しいおはなし たのしくないお話 面白くないおはなし

外は寒い寒い



僕は窓から見える街並みを見下ろしながら、簡素な椅子に腰をかけ温かいコーヒーを飲んでいた



―――――生きている


そう何ら変わりがないように見えるこの街で僕は生きている


唯一の生存者として――――


「うへっ、にげぇ…砂糖いれんの忘れた…」


角砂糖でいうところの二個相当を入れないと飲めないのである

僕はおもむろに砂糖を探す…

台所というにはあまりにもお粗末な簡易キッチンにある戸棚を手探りで。


本来であるならこの街は住むにはあまり適さない場所だ

もちろん古くから住んでいる人間もいただろうから、そういう人からしてみれば非難を受けるかもしれない


僕のおぼろげな記憶がそう語っている


全てを失ったわけじゃない


住めば都という言葉があるがまさにその通りだ

人がいなくなったこの街でも僕はこうして生きていけている

飢えや急激な環境変化もなく

サバイバル生活を強いられる必要もない


そして何より孤独感すら皆無といっていい


それは少し違うな


孤独感はないわけじゃない


想像してほしい

『あなたは人類最後の生き残りです』

目が覚めたら突然言われたらどう感じる?


その絶望感に打ちひしがれるのだろうか?

それとも別の何かの感情?


人間は自分だけは死なないと思っている

大災害にあった人

何らかの事件に巻き込まれた人


おそらく、自分が今日死ぬと思う人間はまずいないね


だけど、同時に自分が地球上で必ず生き残る最後の一人とも考えないだろ

そんなに自分に自信を持ってるやつってのはツチノコよりもお目にかかれない

案外に人間はそんな非現実的な状況に自分を重ね合わせられないもんだよ


もちろんSF小説や映画、漫画。…媒体はなんでもいいか


人間は絶対にありえない状況として自分を重ね合わせてみるんだ

だからこそ楽しめるし娯楽として成立するんだよな



僕はいまだにこの非現実と自分の現実をうまく重ね合わせられないでいる


もちろん実感する場面がないわけでもないが

どこか遠い出来事のように感じてしまってしようがない


ゆとり教育の弊害だろうか?

俗にいうゲーム脳ということか?


…ふぅ、こんなろくでもないことは記憶として多少は残ってるんだな


不思議なもんだ

さて、僕の脳内語りはここらへんにしておくか


「おぉ…砂糖みっけ。…ってカラかよ」


砂糖が入っているはずの瓶を手にして面倒くささを吐露した

そういえば昨夜に飲んだ時に切らしてたんだっけ


こんな風に独り言をつぶやいて脳内会話を嗜んでいるのも目覚めてからの気がする


ここまで寂しい奴じゃなかったはずだと思いたい


「しょうがない。砂糖を仕入れに行ってくるか…」


「外は冷えるぞ。厚着をしていけ。お前は人間なんだから風邪というものを患うやもしれん。」


「あぁ…そうだったな。この部屋も少し肌寒いくらいだしな。ありがとう」


僕は忠告に従い、だらしないアニメキャラのプリントされたロングTシャツの上から厚手のコートを羽織る

残念ながらこのTシャツは僕の趣味ではないし、日常から着用しているわけではない

この非日常のなかでは仕方がなく着ているだけなのだ

僕は日常的に着ている人間をバカにしているわけではない

ただ、センスの違いを理解していただきたい

こういう趣味があるわけではない

やむをえないということだ


寒空の中にいかなければならない憂鬱を抱えて僕はドアノブに手をかける


「あぁ…ついでにアイツを迎えに行ってくれ。そろそろ仕事が終わっているはずだ。」


僕はドキリとした

アイツという単語に異様な恐怖感を覚えた


「…別にアイツは…俺が迎えに行かなくてもいいだろ。勝手に帰ってくるさ」


「そんなことはないぞ。アイツはお前が行けば喜ぶだろうさ。」


…喜ぶ?

何を言ってるんだ

喜怒哀楽でいうところの、怒りという感情の高ぶりを抑えられそうになかった。

曲がりなりにも喜びという感情はおかしい


間違ってやがる…


「…くそっ!!!ざけんなっ…!!」


僕は勢いよくドアを閉めて外に飛び出した

それほどまでにアイツは俺の神経を逆なでする


割り切れるということはすごく大事である

自分の感情に対して理由付けができる

そうすることで安定を保とうとするのが人間だ


しかし理屈は分かっていても

どんなに理解をしていても


それすらも飛び越えてしまうようなモノが感情だ


人間は愚かだ


合理的じゃない


そして――――間違いなく僕も愚かな人間の一人だ

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