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第8話 令嬢突撃


 それは、ばぁやが教えてくれた軍略の基礎中の基礎だった。


『坊ちゃま、戦場とは生き物なのです』


『生き物?』


『ええ。常に蠢き、捕まえようと思えば滑り気を纏い、スルリと掌から溢れていく。誠に難儀な代物でございます』


 しみじみと語る様は、己が経験則を持っての重みが滲み出ていた。多分、血と汗の量だけ思い知ることになった現実なんだと思う。


『……どうにもならないものなの?』


『どう足掻いても、完璧に制御などは出来よう筈もない代物です故に』


 話し振り的に、戦場では流れに身を任せるしかないと言わんばかりだった。けど、その後に直ぐ、ばぁやは楽しげに笑みを浮かべて。


『ですが、手繰り寄せ、絡め取るための手段が、全く無いというわけでもありませぬ』


 まるで、内緒話を教えてくれる様に、そんな言葉を口にしたのだ。無論、気にせずにはいられなかった。


『どうするの?』


『──虚を突くのでございまする』


『……隙を突くってこと?』


『はい』


 そして、ばぁやが教えてくれた内容は……ある意味では、当たり前のことで。


『……戦場で隙を見せる相手なんか、いるのかな?』


 俺のあまりに凡庸な質問にも、ばぁやは嫌がりもせずに答えてくれた。


『虚とは、探すものではなく作り出すもの。相対する者の心に空白を生み出し、乗ずることこそが肝要なのです』


『探すものではなく、作り出すもの……』


『それが出来る者こそが死命を制し、戦場を掌中に収めることができるのですよ』


 明快で、納得の出来る理屈だった。

 多分、あの時の俺は感銘を受けていたんだと思う。


 今でもばぁやの言葉を忘れないで、その通りに策を練っているのだから。


 俺の軍略の根幹は、初心の頃から変わらない。

 如何に敵の虚を作り出すか、その一点に重きを置いているものであった。






「上策と中策と下策がありますけど、何が良いですか?」


 戦いの前、そう尋ねた時にクローデットさんは迷うことなく選び取った。


「一番良さげな上策を教えてくださいな」


「森に伏兵を置き、時機を見て背後を襲わせます」


「その心は?」


「敵は拙速を重んじ、村を焼き払い離脱することを主眼に置いていると想定されます。だから、わざわざ森を警戒しながら行動したりはしないはずで、不意をつける可能性が高いんです」


 説明を聞いて、頷いたクローデットさん。

 納得してくれたようであるが、ではと首を傾げて。


「なるほど……因みに、下策は?」


「敵を村に誘い出した後──村ごと放火します」


「ですわ!?」


「恐らく、想定外の事態に敵も動揺するでしょう。慌てて脱出してきたところを叩けば、必ず勝てます」


「でも、そんなことしたら村が無くなってしまいますわっ!」


「はい、ですから下策です」


「そんな策、絶対に却下致しますわ!」


 自分も同じ気持ちだと、クローデットさん相手に頷いた。

 ただ、それでも口にする。


「ですが、もしものことがあれば、そうせざるを得ません。負けてしまって、敵が俺達を根絶やしにしようとしたら、明日の心配よりも今日の安全を守らざるを得ませんから」


 まぁ、敵も虐殺に勤しむ暇なんて無いし、そもそもクローデットさんが易々と負けるとは思ってない。


 だけど、万が一の時はそうすると伝えると、クローデットさんは鋭利な目をして。


「勝ちますわ、絶対に」


 決意を込めた瞳を浮かべ、自信を持って断言したクローデットさん。

 その目には、信じたくなる強さがあった。


「頼りにしてますね、クローデットさん」






 そうして、俺達は役割を分担した。


 兵を率いて森に潜む(主に貴族令嬢たちで構成された部隊)役割をクローデットさんが。


 そして、村に残って、メイド達を指揮する役割を……。


「え、俺?」


「はい、あなたですジルベールさん」


 まさかの、俺が任せられることに。

 敵が来た時の指揮権、それを明確化するために皆の前で伝えられたことであった。


「そ、それはジルベール様が貴族だからでありますか?」


 恐る恐る、一人のメイドが手を上げて質問する。

 それに、クローデットさんはゆったりと首を振った。


「ジルベールさんは名将ネイ閣下の御子息であり、彼の家では息子でさえ軍略を修めさせています。更には太古の軍中占い師の法を修め、吉兆を引き寄せることさえ出来ます。彼しか、留守を任せられる人は居ないのです」


 その言葉を聞いたみんなは、とても懐疑的な表情を浮かべていた。


 当たり前である、急にひ弱な男性(元の世界基準だと女性)が指揮を取ると聞いたら不安がるのは当然だ。


 むしろ、それを聞いて泰然としている人が居たら、その動じない人物こそ指揮官の器であると推挙したことであろう。


「でも……」


「すみません、ちょっとだけ良いですか?」


 不安を隠せず、言い募ろうとするメイドの人達に対して、俺は挙手をした。

 注目が自然と集まる中で口を開く。


 正直、聞いた瞬間俺も動揺した。

 出来るかと聞かれても、自信もない。


 けど、クローデットさんに言ったから。



『一人じゃなく二人で、今度は俺があなたを支える番です!』



 今度は俺が助ける番だからって、そう決めてたから。

 任されたなら、引き受けたいと思ったのだ。


「確かに、俺は男だし、急にそんなことを言われても困るって思います」


 その言葉に、幾つかの首が頷かれる。

 俺には実績があるわけでもない、当然のことだ。


「……でも、俺だって、みんなの役に立ちたいんですっ」


 正直、適当な理由を並べ立てることもできた。


 罠の状況だとか、敵の目的だとか、それっぽいことを並べ立て、自分が一番それを把握している、なんてことを。


 不安を払拭するのは指揮官の義務だ。それが出来ない時点で、どんなに言い訳しても二流の指揮官としか言えない。


 けど、俺がみんなに必勝の信念を与えられる様な、そんな威を持ってないことは自覚している。


 だから、心の底から思っていることの全てでお願いするしかなかった。二流の自覚があるのなら、誠実さだけは手放すわけにはいかなかったから。


「俺の指揮官としての資質がどうとか、そんなのは論じられません。けど、誰かが怪我をしたら一番に駆けつけて、治療しようと思います。誰かが傷付きそうなら、体当たりしても割って入ろうと思います」


 じっと聞いてくれてるみんなを見回して、自分の心から思っていることを伝えていく。


「俺だけが、皆と違って役目に殉じられなくて、手が空いてるから……」


 自身の劣等感と共に、自分も仲間だということを証明したいんだと、そのことを。


「どうか、みんなのことが一番見える場所で、困っている誰かの下に駆けつけさせてくれませんか?」


 お願いしますと頭を下げる。

 今の俺にできるのは、真摯に頼むことだけだった。



「……私たちのことが、一番見える場所」



 一瞬の静寂の後、質疑していたメイドがポツリと俺の言ったことを漏らした。

 その言葉をきっかけに、辺りは騒めいて。



「……まぁ、確かに誰がしても同じことだし?」


「誰がしても一緒なら、可愛い男の子の方が嬉しい、よね?」


「こ、こらっ。ジルベール様は貴族なのに、失礼だよ!」


「けど、いつも私たちに敬語で、丁寧に接してくれるし……」


「活躍するなら、ジルベール様はそれを見ててくれるってこと?」


「ちょっと、やらしいのはやめなよー」



 聞こえてくるのは、概ね好意的な言葉ばかり。

 クローデットさんと目が合うと、一つ頷かれて。



「ここにいる皆が、ジルベールさんを護る騎士なのです。貴族、使用人問わずに!」



 クローデットさんの煽りで、皆が想いを一つにしていく。


 ダシにされてるのは恥ずかしいけど、でも俺だって空気くらいは読めるから。


「これは、占いの結果なのですが……"我らは血の代わりに汗を流し、忍耐を重ねた果てに勝利を掴み、高揚と共に凱旋するであろう"と出ました」


 占い師という立場を悪用して、作戦の内容を織り交ぜたでっち上げを口にしていく。


 そんな内容を、みんなは真剣に聞いてくれていた。だから、小っ恥ずかしいこの世界の男性仕草を、士気を高めるために何とか口にした。


 そういうことも、軍中占い師の役割だから。


「お、俺もみんなと凱旋したくて……これからも一緒にいたいから……っ。だからっ、みんなを助ける代わりに、お、俺のことを守ってくれますかーっ!!」


 半ばヤケクソ気味に叫んだ言葉に、力強いみんなの"おーっ!"という返事が返ってきたのだった。



 これ、毎回やらなきゃダメなの、酷い話すぎる。

 軍中占い師、想像していたよりも厄介な職業であった。






 こうして、俺は村側のメイド隊を率いる指揮官に就任した。敵が柵に取りついてきた時、それを排除し村を守る責任者に。


 なんとかしないとと、自分を鼓舞する戦いが始まった瞬間だった。



 ──敵は来た、予想通りに。



 敵が迫ってきているのを見た時、嫌な汗が止まらなくなった。


 自分の指示で、誰か死ぬ可能性がある。

 知っている誰かが、血に沈む。


 それを考えると吐きそうで、逃げ出したくなる。


 けど、これ以上何もせずにはいられない。

 何もせずに失うなんて、耐えられそうになかったから。


「──放て!」


 どうにか、踏みとどまって指示を出せたのはそのためだろう。


 今度こそ、自分のものを守る。

 みんなと一緒に、理不尽に抗うんだと。



 ……ただ、その覚悟は気負い過ぎていたのか、何かが変だった。


 予想していた、戦いに慣れているはずの敵の動きが鈍かったのだ。


 何か罠かとも思ったが、そんな気配もない。

 こちらの弓射は確かに鬱陶しいが、数を揃えなかったので弾幕は薄い。


 それより、単純に何かを気にしている雰囲気で。


「ジルベール様、敵魔術師の火の魔術です!」


 向こうで何かが起こっているのか。

 分からないが、雰囲気を打開する様に火が放たれる。


 けれど、火はもとより予想済み。


「工作部隊に通達、火が放たれた部分に泥を掛けて鎮火して!」


 泥をこれでもかと塗ったくり、空気を極力遮断していた木材に、火は回りにくい。


 多少燃えている部分もあるが、そこは武器がなく武装できなかったメイド達にスコップを持たせて、掘った土を被せて鎮火していく。


 火なんて、空気が無ければ燃えない。

 準備さえできていれば、怖くなんてないのだ。


「さて、十分引きつけられてると思うけど……」


 敵軍は、こちらに注意を向けている。

 頃合いは、もう既に十分だ。


 そう思っていた時のことだった。


 ──多数の手投げ斧が、敵に凄まじい勢いで降り注いだのは。






 貴族と平民、どうしてそんな区分ができたのか?


 そのキッカケになったのは、まず魔力の多寡が原因であった。


 魔力が多いものは、より力が強く、魔力を水や火などに物質化できた。それができる者達が、魔力の弱い者や男性を護るようになっていったのだ。


 自然と、その者達は上に立つようになり、権力を集め、広い範囲を治めるようになっていった。


 つまり、貴族は魔力が強い者が選ばれる。


 代を重ねてサラブレッドを作り出すように、貴族達はより良い婚姻を巡らせ、更に強力な魔力を持つ子供を生み出していった。


 つまり貴族、特に武門によって立つ人物達は、およそが平民などとは及びもつかぬほどに魔力、怪力を有しているのだ。


 そんな貴族が、事情があるとはいえ、一つの集団が形成されるほどに集まっている。


 その者達は森で息を潜めて、チャンスが訪れるのを待っていた。


 逸りそうになるのを、自らの指揮官に必死に制止されながら。狩人が、獲物を刈り取るタイミングを図る様に。



 ──そうして、時は来た。



 敵の足が緩んだ瞬間を見逃さず、クローデットは檄を飛ばした。


「今こそが好機、打って出ますわよ!」


 声と共に、100名もの貴族令嬢たち、令嬢中隊とも呼べる一団は潜んでいた森を打って出る。


 そして、ガリティア御用達の手投げ斧を勢いそのまま、およそ200m先にまで接近した敵軍へ向けて一斉に投擲したのだ。


 本来、平民ならば10mが精々であろう射程のこの武器は、なんとこの令嬢方が投擲した場合は150〜300mにも及ぶ(幅が広いのは、個人差があるため)。


 勿論、細かい照準などはつけようがない。

 ただ、物量をもって、敵魔術師の元へと集中的にぶん投げただけである。


 だが、効果はてき面だった。


 奇襲であり、予想していなかった飛び道具は、瞬く間に面制圧攻撃として機能し、敵魔術師達10名のうち、8名が避ける間もなく直撃を喰らい、肉や血を振り撒きながらその場で絶命した。


 敵軍が浮き足立つ、その機を見逃すほどにクローデットは呑気ではない。動揺隠せず後退りする敵に、下すべき判断は一つしかない。


「百倍返しですわ、突撃ですの!!」


 その一つをクローデットは正しく判断できた。勝ち戦鬼の如し、堰を切ったように令嬢達は横撃に成功したのだ。


 時速40kmで肉薄する令嬢中隊に、クルアン教徒達は統制を取れなくなる。


 そして、明らかに常軌を逸している一団を見て、彼女達は思ったのだ。

 ──悪魔が列を成して来た、と。


 本来ならば各領地で囲われ、集めることができない貴族令嬢達の集中投入。その威が、目に見えて顕現した瞬間であった。


「クッ、聞いていないぞ、この様なっ」


 クルアン教の指揮官は、そのあまりにも苛烈な攻撃を仕掛けてくる一団に、早々に部隊掌握を諦めた。逃げるなと言っても、こんなのは無理に決まっている。


 仕方なく、自身も尻尾を巻いて逃げるしかない。

 そう判断したのだが……既に、時は遅かった。


「──ならば、あの世で広めてくださいまし。ガリティアと、ジラール家の武威を」


「き、貴様は──」


 既に、クローデットが敵指揮官に目星をつけて、踏み込んできていたからだ。


 周囲の兵士は閑散とし、統制にしくじり、掌握できなかったツケが早急に回ってきた。お代は勿論、その命でしか支払えない。


 クローデットは敵が話す暇も与えず、一刀の下に指揮官であった人物を切り捨てた。



「あっ、悪魔だ! 豚を喰らい続けて悪魔になった化け物共が来たんだ!」


「ムスタファが豚を喰うなとあれほど言っていたのにっ」


「に、逃げなきゃ、私らも豚を喰らわされるぞっ!」



 敵軍の混乱が、さらに加速する。

 バラバラに、敵軍は四分五裂しながら何処かへと逃げ出した。


 それぞれが、悪魔が来たと叫びながら。



「おっしゃー、皆殺しの時間でしてよ!」


「ブタブタと五月蝿いですわね。そんなに豚の餌になりたいのなら、この機に加工して差し上げますわ!」



 その様子を見た令嬢達は、血に酔っていたこともあり、追撃を開始しようとした。村にちょっかいをかけた分だけ、恐怖と後悔を与えようとしたのだ。


 ……ただ、それはクローデットの望むところではなかった。


 無駄に死体を増やしたら、それだけで疫病の温床となる。また、追撃で誰かが死傷しようものならば、明らかに割に合わないと判断したが故に。


「お待ちなさいな、ジルベールさんも仰っていたでしょう? 忍耐を重ねた者のみが、勝利を掴み凱旋できる、と」


 その言葉を聞いて、沸騰している最中だった令嬢達の足が止まる。具体的には、ジルベールという名前を聞いた辺りで。


 自分たちの心の王子様がこの光景を見ていることを思い出し、狂乱に耽る姿を見せる愚を悟ることができたのだ。脳筋共のくせに、格好をつけたがって。


「じゃ、じゃあ、むざむざ敵が逃げるのを黙って見送らなきゃいけないの?」


 けど、我慢はできても不満は抱いてしまう。

 一人の令嬢が、不平を隠さずに口にしたのだ。


「勿論──そんな訳はありませんわ」


「……ほえ?」


 だが、待ったをかけた本人であるクローデットが、タダで逃すわけはないと口にした。


 いまいち理解の追いついていない令嬢達を前にして、クローデットは手本を見せるが如く、どこまでも響く大声を出した。


 背を見せて逃げている、クルアン教徒達に向かって。



「──お聞きなさいっ、武器を捨て逃げる者は追撃致しませんわ! ですが、持って逃げる場合は戦う意思があると見なし、この場で殲滅致しますわよ!!」



 その果てまで届く声に、クルアン教徒達は肌を粟立たせた。


 相手は悪魔で、時速40kmで猛追してくる化け物なのだ。抵抗しても無駄で、一方的に殺戮される未来が待ち受けているのは想像に難くない。


 どう考えても、まともに相手をしてはいけない集団でしかなかった。


 ……しかし、一方でクルアン教徒は思い出した。

 悪魔は悪徳を成すが、契約は履行するという言い伝えを。


 それに気がついたら最後、彼女達は次々に武器を手放した。これが、悪魔からの命の取引だという実感に、急速に支配されていったから。


 武器だけでなく、防具を投げ捨て、軍馬まで置き去りにして、クルアン教徒達は這々の体で壊走を始めた。


 その後、村の周辺に残ったのは、クルアン教徒の死体と、武器と、防具と、立ち往生していた無数の軍馬達。


 その場に、高らかに少女達の勝鬨が上がったのは、言うまでもないことであった。




 今回の村を巡る攻防で発生した死傷者は、以下の通りである。


 クルアン教徒側の損害、死者47名、負傷者52名。

 対して、ガリティアの亡命者達の損害、負傷者が7名のみ。


 完全なる勝利によって、クローデットとジルベールは敵を打ち払うことに成功したのだった。


 また、まもなく冬が訪れる。

 どの軍も、兵を起こすことはできなくなる。


 この勝利で、村はついぞ脅かされる事がなくなったのであった。






「……ほぅ、出来過ぎなくらいの結果だが、本当なのか?」


「はい、森に潜ませていた密偵からの報告です、間違いありません。また、亡命者達は多数の武器と軍馬を鹵獲しました。これは快挙ですよ!」


 イスペリア王国の臨時首都であるカルロス地方、州都バローラの行政府にて。


 モノクルを光らせながら、その人物は目を輝かせている伝令兵からの報告を受け取っていた。


 冬に入る前におきた、憎き異教徒と亡命者貴族達の小競り合いの結果を。


「宰相閣下は、彼女達が歴戦の強者であると見抜いて監視をつけておられたのですか!?」


 宰相と呼ばれたその人物は、曖昧な笑みを浮かべながら答えた。


「いや、只者ではないと思っただけだよ」


 その言葉に何度も頷く伝令兵を下がらせて、一人になった部屋で宰相は呟いた。


「……面倒ごとを始末してくれる様に期待したのだがな。つくづく、期待を裏切ってくれる」


 主語こそ呟かなかったが、その対象がそれぞれ何であるのかは明瞭である。


 新生したガリティアと、彼女は面倒ごとを抱えたくなどなかったのだ。


 失望を瞳に讃えながら、彼女は窓越しに浅い雪が降り積もっているのを見つめた。


「──しかし、可能性を見せた、ということでもある。貴族令嬢の集中運用による爆発的な強襲……或いは、奇貨になり得るのかな」


 そう呟くと同時に、彼女は筆と羊皮紙を手に取る。

 宛先は──ガリティア人の亡命村に向けて。


 後日、冬が深くなる中で、村が俄かに活気だつ要因となる手紙であった。



 その手紙に曰く、イスペリア王家の印章と共に、こう記されていた。


 ──ガリティア亡命貴族諸氏との、同盟を模索している、と。

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