第9話 鎧とスライムの行進曲
三時の鐘のように、がしゃん、ぷるん。
今日もカフェ<カオスフレーム>の扉が開くと同時に、その音が響いた。
がしゃん、ぷるん。がしゃん、ぷるん。
鎧を揺らす騎士ポエールと、その足元をぴょんぴょん跳ねるスライム。
二つのリズムが混じり合い、まるで行進曲だ。
「本日も勇敢に来店!」
ポエールは胸を張って名乗り、鎧が誇らしげに音を立てる。
スライムは「ぷにぃ」と鳴いて椅子の横にぴょんと着地した。
◇ ◇ ◇
「勇敢な飲み物を!」
「はいはい、ブレンドですね」
私はすでに慣れた手つきで準備を始める。
同時にスライム用の砂糖水を大鉢に用意するのも、もう私のルーティンになりつつあった。
がしゃん、とポエールが椅子に腰を下ろす。
ぷるん、とスライムが大鉢に飛び込む。
カフェの床板が小さくきしむ。……勇敢というより、重量が心配だ。
◇ ◇ ◇
「マリエル殿!」
ポエールが声を張る。
「本日の行進、見事であったろう!」
「……店の床掃除泣かせでした」
「なにっ!?」
「水滴が跳ねるたびに床がべとつくんです。……勇敢よりも雑巾が必要になります」
私はため息をつきながらモップを手に取った。
スライムが「ぷにっ」と泡を出して、なぜか誇らしげに揺れる。
「雑巾……それもまた勇敢!」
ポエールが鎧を打ち鳴らす。
「武器は剣だけにあらず! 雑巾もまた勇気の証!」
「……そういう勇敢はあまり聞いたことがありません」
私は苦笑しつつ床を拭いた。
◇ ◇ ◇
オグリが新聞をたたみ、低音でつぶやく。
「がしゃん、ぷるん。……行進の調べだな」
「そう、勇敢のリズム!」
ポエールが胸を張る。
「違うよ、可愛いのリズム!」
マーリンがパフェを抱えて叫ぶ。
ローブぱつん、椅子みしみし。
「いや、やっぱり床掃除のリズムですね……」
私はモップを動かしながら、誰にともなくつぶやいた。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に書き留める。
——がしゃん、ぷるん。騎士とスライムの行進曲。
——勇敢か、可愛いか、それともただの掃除泣かせか。
その文字を見て、私は少し笑った。
日常は今日も、行進のリズムで進んでいく。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第10話「ファイヤァァボォォォル!」
「パフェじゃなくて拳を掲げる日が来るなんて……。魔法少女(?)は、やっぱり物理でした」