表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

第9話 鎧とスライムの行進曲

三時の鐘のように、がしゃん、ぷるん。

 今日もカフェ<カオスフレーム>の扉が開くと同時に、その音が響いた。


 がしゃん、ぷるん。がしゃん、ぷるん。

 鎧を揺らす騎士ポエールと、その足元をぴょんぴょん跳ねるスライム。

 二つのリズムが混じり合い、まるで行進曲だ。


「本日も勇敢に来店!」

 ポエールは胸を張って名乗り、鎧が誇らしげに音を立てる。

 スライムは「ぷにぃ」と鳴いて椅子の横にぴょんと着地した。


◇ ◇ ◇


「勇敢な飲み物を!」

「はいはい、ブレンドですね」

 私はすでに慣れた手つきで準備を始める。

 同時にスライム用の砂糖水を大鉢に用意するのも、もう私のルーティンになりつつあった。


 がしゃん、とポエールが椅子に腰を下ろす。

 ぷるん、とスライムが大鉢に飛び込む。

 カフェの床板が小さくきしむ。……勇敢というより、重量が心配だ。


◇ ◇ ◇


「マリエル殿!」

 ポエールが声を張る。

「本日の行進、見事であったろう!」

「……店の床掃除泣かせでした」

「なにっ!?」

「水滴が跳ねるたびに床がべとつくんです。……勇敢よりも雑巾が必要になります」

 私はため息をつきながらモップを手に取った。

 スライムが「ぷにっ」と泡を出して、なぜか誇らしげに揺れる。


「雑巾……それもまた勇敢!」

 ポエールが鎧を打ち鳴らす。

「武器は剣だけにあらず! 雑巾もまた勇気の証!」

「……そういう勇敢はあまり聞いたことがありません」

 私は苦笑しつつ床を拭いた。


◇ ◇ ◇


 オグリが新聞をたたみ、低音でつぶやく。

「がしゃん、ぷるん。……行進の調べだな」

「そう、勇敢のリズム!」

 ポエールが胸を張る。

「違うよ、可愛いのリズム!」

 マーリンがパフェを抱えて叫ぶ。

 ローブぱつん、椅子みしみし。

「いや、やっぱり床掃除のリズムですね……」

 私はモップを動かしながら、誰にともなくつぶやいた。


◇ ◇ ◇


 閉店後、帳面に書き留める。

 ——がしゃん、ぷるん。騎士とスライムの行進曲。

 ——勇敢か、可愛いか、それともただの掃除泣かせか。


 その文字を見て、私は少し笑った。

 日常は今日も、行進のリズムで進んでいく。


◇ ◇ ◇


――次回予告――

第10話「ファイヤァァボォォォル!」

「パフェじゃなくて拳を掲げる日が来るなんて……。魔法少女(?)は、やっぱり物理でした」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ