第47話 詩人と星の種
朝の光が、まだ柔らかかった。
カフェ<カオスフレーム>の窓辺には、
昨夜カップに入れておいた小さな光が、
まだかすかに脈打つように瞬いていた。
「……生きてる」
光は、呼吸をするように膨らんだり縮んだりしていた。
その様子は、まるで眠っている赤子の胸のよう。
私はそっと指を伸ばす。
カップの底が、ほんのりと温かい。
◇ ◇ ◇
扉のベルが鳴る。
「おはよう、詩人殿!」
ポエールがスライムのグラスを連れて入ってきた。
グラスはすぐにカウンターの上に飛び乗り、
ぷにぃ、と鳴いて光に鼻(?)を近づけた。
「むむっ、これは勇敢な豆か!?」
「違います、星です」
「星!? 店内に!?」
「うん、“星の種”……なのかも」
私の言葉に、ポエールは鎧を鳴らして目を丸くした。
スライムも“ぷにっ”と跳ねる。
◇ ◇ ◇
そこへ、オグリが入ってくる。
新聞を持ったまま、珍しく無言だった。
そのままカウンターに歩み寄り、
光を覗き込むと、低く呟く。
「……これは、空の記憶だ」
「空の、記憶?」
「ああ。かつて星が一度消えたとき、
その光の断片が、地上に降りたと言われている。
“詩の器”に拾われれば、
再び夜空に戻る――そういう伝承がある」
「詩の器……つまり、詩人?」
「そのとおりだ」
オグリの言葉に、胸の奥が熱くなる。
昨夜拾った小さな光が、
まさに“世界の種”かもしれないなんて。
◇ ◇ ◇
マーリンが入ってきて、
杖を光の上にかざす。
光がふわりと舞い上がり、
空中で七色に変化した。
「生きてる。詩に反応してるのね」
「詩に……?」
「ええ。この世界の“言葉の脈”に同調してる。
つまり――あなたの詩で、育つ」
「私の……詩で?」
マーリンは微笑む。
「星はね、言葉の子どもよ。
夜の静けさが、心の中で言葉に変わるとき、
それが光になるの」
◇ ◇ ◇
私は帳面を開き、
昨夜の詩の続きに新しい一行を書いた。
“灯りは、空の鼓動。
ひとつ息をするたびに、
世界のどこかで夜が生まれる。”
ペンを置くと、
カップの中の光が大きく膨らんだ。
そして――
音もなく、空に小さな“芽”が伸びていった。
◇ ◇ ◇
それは光の蔓のようだった。
細く透明で、
でも確かな“生命”を感じる。
カフェの天井を越え、
屋根を抜け、外の空へと延びていく。
「……星が、芽吹いた」
マーリンが小さく呟く。
ポエールが見上げながら、
「詩人殿、あれが“夜の種”か!?」
「そうみたいですね」
空の上で、
まだ淡い朝の青に、ひとつ光の粒が瞬いた。
まるで夜と昼が握手をしたように。
◇ ◇ ◇
オグリが静かに言った。
「詩人。
星は夜の言葉だ。
昼の中にそれが生まれたなら、
世界が何かを語りかけている」
「何かを……?」
「“夜を取り戻せ”だ」
◇ ◇ ◇
私はノートを閉じ、深呼吸した。
夜を取り戻す――
それが、詩人である私に課せられた新しい旅なのかもしれない。
「詩人殿、ならば我らも同行しよう!」
ポエールが胸を叩き、スライムが“ぷにぃ!”と鳴く。
マーリンは杖を軽く振り、
小さな光を空に送りながら言った。
「この旅は、言葉の旅。
詩を忘れた夜を、もう一度灯しましょう」
◇ ◇ ◇
私は静かに頷いた。
カップの底には、まだわずかな光が残っている。
それが、“星の道”の出発点のように感じた。
“世界はまだ、
詩の途中にいる。”
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第48話「詩人と夜を取り戻す旅」
「“星の芽”が導く光の道。
詩人マリエルと仲間たちは、
夜空を取り戻すための最初の一歩を踏み出す――。」




