第27話 マーリン、恋を語る
昼下がり。
陽が少し傾き始めたカフェ<カオスフレーム>に、ローブぱつんの影が差した。
「マリエル〜! 聞いて聞いて〜!」
勢いそのままに扉が開き、筋肉魔法少女マーリンが飛び込んできた。
カウンターの脚が一瞬“ギシッ”と鳴る。
「ちょ、ちょっと! 壊れます!」
「壊れても直せばいいの! 恋ってそういうものでしょ!」
「どの恋ですか!?」
◇ ◇ ◇
「実はね……」
マーリンは顔を赤らめて、ほっぺを指でつついた。
「今朝、知らない人に“おはよう”って言われたの!」
「え、それだけで恋なんですか?」
「胸がドキッてしたもん!」
「それはたぶん、カフェインの取りすぎです」
「違うもん! 私、恋したかもしれないの!」
ローブの袖からのぞく腕が、興奮でぷるぷる震えている。
それは筋肉なのか、乙女心なのか……たぶん両方だ。
◇ ◇ ◇
「恋ってね、筋トレに似てると思うの!」
「……いきなり理屈がすごい方向へ行きましたね」
「最初は痛いの。だけど続けると、どんどん強くなる!」
「……心じゃなくて胸筋が強くなってません?」
「恋も胸で感じるから一緒だよ!」
「物理的な意味じゃないです!」
マーリンは拳をぐっと握りしめる。
「私、決めた! 恋を鍛える!」
「いやどうやって!?」
◇ ◇ ◇
そこへ、がしゃん。
「恋を鍛えると聞いて参上!」
ポエールが鎧姿で現れた。
「拙者も恋を修行したい!」
「恋に修行はあるんですか?」
「愛を知る者は剣を知る!」
「ちょっと黙っててください!」
ぱたん、と新聞の音。
「……恋とは、混沌だ」
「出た、混沌の哲学!」
オグリ・ジュンがいつもの低音で締めた。
「恋は、香りだ」
「詩的なようで意味が分からないのが一番困ります」
◇ ◇ ◇
「よし! みんなで恋の詩を詠もう!」
「えっ!?」
「まずは私から!」
“恋は炎。
燃える筋肉。
心がスクワット。”
「……詩というよりトレーニングメニューですね」
続いてポエール。
“恋は剣。
切られてなお、立ち上がる。”
「それ、ちょっと重たいです!」
そしてオグリ。
“恋は香り。
鼻先をくすぐり、遠ざかる。”
「やっぱり嗅覚なんですね」
全員の視線が、私に向けられる。
「マリエルは?」
「え、私?」
私は小さく息を整えて、ペンを取った。
“恋は、言葉の隙間。
触れたら壊れる、
混沌の泡。”
静まり返るカフェ。
マーリンが目を丸くして、ぽつりと言った。
「……可愛い」
「筋肉なしでも?」
「うん、恋っていろんな形があるんだね」
そう言って微笑んだ彼女の顔は、いつになく柔らかかった。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に書く。
——恋の定義は人の数だけ。
——でも、どの恋もきっと少し混沌で可愛い。
私は窓の外を眺める。
夕焼けが、まるでローブの赤のように広がっていた。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第28話「詩人と花束、あるいは午後の奇跡」
「カウンターに届いた一輪の花。それが、誰の想いなのか……詩人マリエル、少しだけ胸がざわつきます」




