第26話 スライムの休日、ぷにぷに日和
朝のカフェ<カオスフレーム>。
私はいつものようにカウンターを拭きながら、あることに気づいた。
「……あれ? スライムがいない」
いつもなら開店前から足元を跳ね回っているのに、
今日は静まり返っている。
厨房の隅にも、椅子の下にも、ぷにぃの気配がない。
「まさか、脱走……!?」
◇ ◇ ◇
——がしゃん。
鎧を鳴らして、ポエールが入ってきた。
「勇敢なるスライムの休暇である!」
「え、休暇!?」
「うむ、昨日の勇敢なる消火活動の疲労でな。今日は“ぷにぷに休養日”とのことだ」
「スライムが自分で決めたんですか?」
「ぷにぃ、と言っていた」
「……なるほど(分からない)」
◇ ◇ ◇
私は思わずカウンターの下を覗き込む。
そこには小さな木箱。
中にはふわふわの布と、水滴を湛えた皿。
そして、うっすら光る丸い塊。
「……寝てる」
スライムが丸くなって、ゆっくり上下している。
まるで呼吸しているみたいだった。
「ぷに……ぷに……」
音まで穏やか。
普段の跳ねっぷりを知っているだけに、ちょっと胸が温かくなる。
◇ ◇ ◇
「詩人殿、スライムは働き者だ」
ポエールが静かに言う。
「我らが汚した床を、いつも掃除してくれている」
「……そういえば、床が光ってる日って、だいたいスライムが元気な日ですね」
「うむ、まさに“勇敢なる清掃員”だ!」
「職業名に“勇敢”つけるのやめましょう」
私は雑巾を握りしめて、小さく笑った。
勇敢だろうと可愛いだろうと、この店は、誰かが静かに働いてくれて成り立っている。
——それは、きっと私も同じ。
◇ ◇ ◇
午後。
マーリンがローブぱつんで現れる。
「スライムくん、今日は筋トレ休み?」
「休養日です」
「えらい! 筋肉も休ませるの大事だもんね!」
「それと同じ分類でいいんですか!?」
マーリンはしゃがんで、スライムの上にそっと手を置く。
スライムが“ぷにぃ”と光って応える。
その光は、まるで「ありがとう」と言っているみたいだった。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
スライムは目を覚まし、ゆっくり伸びをした。
ぷるぷると揺れながら、棚の上に跳び乗る。
窓から差し込む夕日を、体の中で反射させて輝く。
「……おかえり」
「ぷにっ」
それだけのやり取りなのに、不思議と詩みたいに響いた。
働く日も、休む日も、この店の一部なのだ。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に書く。
——勇敢なスライムにも、休暇が必要。
——静かなぷにぃの音が、今日の詩になった。
ページを閉じながら、私は思う。
明日もまた、誰かがこの店を光らせてくれるのだろう。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第27話「マーリン、恋を語る」
「筋肉よりも胸が熱い!? マーリン様が“可愛い恋”を語る日。……詩人の心が、ざわつきます」




