第24話 カフェの夜と、詩人の夢
夜のカフェ<カオスフレーム>は、昼間とはまるで違う顔をしている。
カップも、椅子も、静かに息をしているようだった。
外は雨。
ガラス越しに灯る街灯の光が、カウンターに柔らかく反射している。
私は最後の食器を棚に戻し、帳面を閉じた。
「……静かだ」
久しぶりに本当に静かだ。
今日は誰も来ない。
勇敢も、可愛いも、混沌も、ようやく眠っている。
◇ ◇ ◇
あまりの静けさに、私はカウンターに頬をつけた。
暖かい木の感触。
焙煎の残り香。
眠気が、じんわりと滲んでくる。
まぶたが落ちる。
——気づけば、夢の中だった。
◇ ◇ ◇
そこは、少し不思議なカフェだった。
壁には詩が浮かび、カップが低い声で歌っている。
豆が跳ねてリズムを刻み、スライムがミルクを攪拌していた。
「詩人殿、夢の世界でも営業中だな!」
ポエールが天井から逆さにぶら下がっている。
「うわっ!? なんで逆立ちしてるんですか!?」
「夢だからだ!」
隣の席では、オグリが新聞を逆から読んでいる。
「……逆もまた混沌」
「夢の中でまで哲学的やめてください!」
そしてカウンターの奥では、マーリンが——
「ファイヤァァボォォォル・ラテアァァァート!」
「やめろォォォォォ!」
炎が泡を照らし、詩の文字が光に変わる。
その光の中で、私は気づいた。
——混沌すら、美しい。
◇ ◇ ◇
ふと目を開ける。
朝の光が差し込み、カウンターの上にはノートが開かれていた。
インクが少し滲んで、文字が流れている。
夢の中で書いたのだろうか。
そこには、こんな詩が残っていた。
混沌は歌い、
詩は笑う。
眠れる夜も、
カップは温かい。
私はそっと笑って、ノートを閉じた。
夢も、現実も、きっとこの店の一部だ。
◇ ◇ ◇
カウンターを整え、ドアを開ける。
朝の風が入り、ベルが鳴る。
今日もまた、詩人の一日が始まる。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第25話「馬と詩とモーニングブレンド」
「朝の光とともに、オグリさんの低音が響く。……混沌は、今日も早起きです」




