第23話 詩人と客と、開店祝い
新装開店の日。
カフェ<カオスフレーム>のドアに、新しい木札が掛けられた。
“詩と混沌の香る喫茶店”。
書いたのは私。
彫ったのはポエール。
燃やしかけたのはマーリン。
塗り直したのはスライム。
そして、斜めに取り付けたのはオグリ。
「……結局、最後の傾きが味になりましたね」
私は微笑みながらドアを開ける。
◇ ◇ ◇
「開店おめでとう、詩人殿!」
がしゃん、と鎧が鳴る。
「勇敢なる祝いの日!」
「わぁ〜! 見てマリエル! 私、ケーキ焼いてきた!」
マーリンが持ってきたのは、ケーキ……というより筋肉型の焼き菓子だった。
「プロテイン入り可愛いケーキ!」
「……どのへんが可愛いんでしょう」
オグリは静かに花束を置く。
「混沌には、花が必要だ」
「ありがとうございます。……でもその花、馬用飼料じゃないですか?」
「食える花は、強い」
「理屈がよく分かりません!」
◇ ◇ ◇
テーブルにはケーキ、花束、そしてスライムがぷにぃと光る。
まるでそれ自体がデコレーションの一部のようだ。
「詩人殿、スピーチを!」
ポエールが胸を張る。
「え、スピーチ!?」
「勇敢なる言葉を!」
「可愛い言葉を!」
「低音で締めろ」
完全に逃げ道がない。
私は深呼吸し、カウンターに手を置いた。
◇ ◇ ◇
「……この店は、いつも混沌です。
勇敢な床掃除、可愛い焦げ跡、低音の余韻。
でも——そんな皆さんがいるから、この店は詩になるんです」
静かに言葉を締めると、ポエールが目を潤ませた。
「詩人殿……勇敢だ……!」
マーリンが拍手する。
「今のすっごく可愛かった!」
オグリが頷く。
「……混沌の完成形だな」
私はため息をつきながら笑った。
まったく、この店の解釈はいつも斜め上だ。
◇ ◇ ◇
そのとき、店の外で大きな音がした。
——ドン!
「……え?」
窓から覗くと、外には花火のような光。
「マーリン様、まさか……」
「えっ、私じゃないよ!? たぶん自然発火!」
「自然は発火しません!」
ポエールが剣を抜きかけ、オグリが新聞で鎮火を試みる(?)。
結局、スライムが外へ跳び出し、火花を吸収して丸く光った。
「……勇敢なる消火!」
「ぷにぃ!」
「やっぱり平和じゃなかった……」
◇ ◇ ◇
夜。
火花の匂いが少し残るカウンターで、私は帳面を開いた。
——開店祝い。
——笑って、焦げて、詩になった。
新しい店も、結局いつもの日常だ。
それが何より嬉しかった。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第24話「カフェの夜と、詩人の夢」
「夜更けのカフェでうとうと……。夢の中でも、常連たちはやっぱり混沌でした」




