第22話 カオスフレームの新装開店
朝。
カフェ<カオスフレーム>の前に、大きな木箱が積み上げられていた。
見慣れぬ工具と、謎の設計図。
私は看板を見上げて、ため息をつく。
「……やっぱり来たか、この日が」
“改装工事のお知らせ”。
原因は、先週のマーリンの腕立てによる床の損傷、
ポエールのスライム風呂による床材の溶解、
そしてオグリの低音による振動クラック(らしい)。
「詩的崩壊」と呼ぶべきか、「混沌の因果応報」と呼ぶべきか。
◇ ◇ ◇
「詩人殿、手伝いに参上!」
がしゃん。
ポエールが鎧姿で工具箱を担いで現れた。
「その鎧で作業する気ですか!?」
「勇敢なる大工仕事だ!」
ぱつん。
「リフォームって可愛い響きだよね!」
マーリンが筋肉むき出しで木材を運び始める。
「可愛いとか言いながら、釘折ってますけど!?」
そして低音。
「……設計図を見せろ」
「オグリさん、建築詳しいんですか?」
「混沌には基礎が必要だ」
「名言みたいに言わないでください!」
◇ ◇ ◇
それぞれの「理想のカフェ」案が飛び交う。
「二階を訓練場に!」(ポエール)
「天井を鏡張りにして、映えるカフェに!」(マーリン)
「席を蹄型に配置する」(オグリ)
「そんな形の店見たことないです!」(私)
工具音、魔法音、鎧音、筋肉音が入り乱れ、
カフェはもはや“工事現場の交響曲”と化していた。
◇ ◇ ◇
「マーリン様! そこ火を出しすぎです!」
「演出だよ! リノベーションって炎の試練でしょ!?」
「どこの世界の!?」
ポエールは木槌を振り下ろし、スライムは板の上をぷるぷると滑りながらニスを塗る。
オグリは水平器を覗き込みながらつぶやく。
「……傾いている。詩的だ」
「詩的じゃなくて危険です!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
ようやく完成した“新生カオスフレーム”は、奇跡的に立っていた。
カウンターは少し傾き、床には魔法陣の焼き跡。
壁には「勇敢」「可愛い」「混沌」と彫られた三つの金文字プレート。
「……思ってたのと違う」
私は呆然とつぶやく。
「詩人殿! 勇敢に輝いておる!」
「可愛いカフェ爆誕!」
「混沌、安定した」
「意味が矛盾してます!」
笑いながらも、どこか誇らしい。
この店はいつだって、完璧じゃないけれど温かい。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に書く。
——新しいカウンター。
——傾いても、ここは居心地がいい。
インクを乾かしながら、私は小さく笑った。
“新装開店”の文字の上に、コーヒーの香りが漂っていた。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第23話「詩人と客と、開店祝い」
「お祝いの日。花束とケーキと、なぜか戦闘準備。……お願いです、今回は平和にしてください」




