第18話 鎧と休日とスライム風呂
休日のカフェ<カオスフレーム>。
今日は誰も来ない——そう思っていた。
けれど、扉の向こうから聞こえるのは、聞き慣れたがしゃんがしゃんの音。
「……え?」
「勇敢なる休日、始動!」
鎧の騎士、ポエール。
そして足元ではスライムがぷるんと跳ねる。
休日なのに、いつもどおりの二人組である。
◇ ◇ ◇
「今日はお仕事じゃないんですよね?」
「うむ。だが、休息もまた勇敢なる行為!」
胸を張って答えるポエール。
「それで……その桶は?」
「風呂だ!」
「……は?」
「勇敢なるスライム風呂である!」
彼の背後には、なぜか木桶。
そしてその中でスライムがぷにぷにと跳ねていた。
「入浴とは、魂の研磨! 鎧を磨くのも勇気の一環!」
「いや、それスライムに入ってるだけでは……?」
◇ ◇ ◇
「詩人殿、見ておれ!」
ポエールはがしゃん、と鎧を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと! ここカフェですよ!?」
「鎧を洗わずして何を休む!」
勢いよく桶へ足を突っ込む。
——ぷにゅん。
スライムが彼の体を包み込み、泡立つように揺れる。
「おお……! 勇敢なる温もり!」
まるで人間が炭酸風呂に入って感動しているかのような声を上げるポエール。
「……本当に大丈夫なんですか、そのお湯」
「勇敢にぬるぬるしておる!」
「言い方!」
◇ ◇ ◇
やがて、泡が落ち着き、ポエールが上がってきた。
鎧はピカピカに磨かれ、スライムも満足げにぷにぃと鳴く。
「見よ! これぞ勇敢なる休息の成果!」
「……なるほど。あなたの勇気は、方向性が独特ですね」
私はタオルを差し出しながら、そっとため息をつく。
それでも、スライムが楽しそうに跳ねているのを見ると、まあ……悪くはないか、と思ってしまう。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に書く。
——勇敢なる休息は、ぬるぬるしていた。
——混沌の定義が、またひとつ更新された。
インクが乾く音の中で、私は笑いを堪える。
今日の詩は、ちょっと湿って、でも温かい。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第19話「魔法少女の休日、筋肉は眠らない」
「休日のはずが、マーリン様が朝から筋トレ。……そのダンベル、やっぱり杖なんですよね?」




