第14話 勇敢な砂糖水、可愛いブレンド
三時のカフェ<カオスフレーム>。
今日も混沌が扉を押し開ける。
馬面の紳士オグリは新聞を携え、騎士ポエールはスライムに跨り、筋肉魔法少女マーリンはローブをぱつんと弾かせて入ってくる。
それぞれの注文も、もはや定番だ。
「ブレンドを」
「勇敢なる飲み物を!」
「パフェ! 今日はストロベリー!」
私は慣れた手つきで準備を進めながら、ふと思った。
……この人たちは飲み物に人格を見すぎているのでは、と。
◇ ◇ ◇
砂糖水が大鉢に満ち、スライムが飛び込む。
「ぷにぃ」
「勇敢な沈黙だ!」
ポエールが胸を張る。
「ただの砂糖水ですけど」
「否! 甘さに己を委ねる姿こそ勇敢!」
「ぷにっ!」
スライムが同意のように泡を出す。
その横でオグリはラテではなくブレンドを啜る。
「……可愛い」
「え? 今、可愛いって言いました?」
「泡がなくとも、苦みが柔らかく寄り添う。可愛い味だ」
「ブレンドに可愛いを見出したのは初めてです」
◇ ◇ ◇
「マリエル! 可愛いはどれ!?」
マーリンがスプーンを握りしめ、身を乗り出す。
「パフェ以外にもある?」
「……私に聞かないでください」
「あるよね!? 絶対あるよね!」
ローブがぱつん、椅子がミシミシ。
「マーリン様、落ち着いてください!」
「勇敢!」「可愛い!」「混沌!」
三人三様に飲み物へ名札をつける。
私はただ一言、心の中で突っ込む。
——全部ただの飲み物です。……たぶん。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に一行。
——勇敢な砂糖水、可愛いブレンド。
——混沌に飲まれる前に、冷めないうちにどうぞ。
インクが乾く頃には、私の口元にも小さな笑みが残っていた。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第15話「詩人の帳面、混沌の記録」
「愚痴を書くつもりだったのに、気づけば詩になっていました。……混沌はどうしても、笑いに変わってしまうみたいです」