第13話 馬と騎士と魔法少女、そして雑巾
三時のカフェ<カオスフレーム>。
今日も混沌は定刻どおりに到着する。
新聞を広げる馬面の紳士・オグリ。
鎧をがしゃんと鳴らす騎士・ポエール。
パフェに夢中な筋肉魔法少女・マーリン。
そして床をぷるんと濡らすスライム。
……そのすべてを片付けるのは、結局、私と——雑巾だった。
◇ ◇ ◇
「混沌は床に滴る」
オグリが低音で言う。
たしかに、滴っている。スライムの砂糖水が。
私はため息をついて雑巾を取り出す。
「勇敢なる水分!」
ポエールが鎧を揺らして叫ぶ。
「勇敢に拭き取ってみせよう!」
「いや、鎧で床を拭かないでください!」
結局、私がしゃがみ込んで雑巾を絞る。
「わぁ! 拭き取りの仕草が可愛い!」
マーリンがスプーン片手にきらきらした目で見つめてくる。
「……褒められている気がしません」
私は膝を濡らしながら返す。
◇ ◇ ◇
がしゃん。ぷるん。ぱつん。
店内の混沌三拍子に、雑巾のぎゅっ、すっという音が加わる。
まるで伴奏だ。
「詩人さん」
オグリが新聞を閉じて言った。
「雑巾は詩だな」
「……は?」
「余計なものを吸い取り、静けさを残す。まるで詩と同じだ」
私は手を止め、思わず笑ってしまった。
——たしかに、そうかもしれない。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に書く。
——馬と騎士と魔法少女が混沌を運ぶ。
——雑巾はそれを受け止め、日常を残す。
インクを乾かしながら、私は雑巾を干した。
今日も私の相棒は、誰よりも静かに働いてくれた。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第14話「勇敢な砂糖水、可愛いブレンド」
「飲み物ですら彼らにかかれば性格を持ちます。勇敢? 可愛い? いいえ、ただの飲み物です……たぶん」