第11話 注文は混沌の中から
三時。
カフェ<カオスフレーム>の扉が開くと同時に、私の覚悟も試される。
なぜならこの店における最大の混沌は、料理でも内装でもなく——常連の注文だからだ。
◇ ◇ ◇
「ブレンドを。……今日は氷ひとつ」
オグリ・ジュンが低音で言う。
「えっ、ホットに氷ですか?」
「温度差が混沌を整える」
私は思わず首を傾げながら、カップの横に氷を添えた。
「勇敢なる飲み物を! さらに勇敢なトッピングを!」
ポエールが胸を張る。
「トッピング……ですか?」
「うむ、勇敢なる……泡!」
「泡って……ただのミルクフォームですけど」
「それだ!」
鎧ががしゃんと鳴る。
スライムが「ぷにぃ」と跳ね、大鉢を見つめる。
「……追加注文ですか?」
返事の代わりに、砂糖水に自ら飛び込み「ぼこっ」と泡を出した。
……セルフサービスとは勇敢だ。
◇ ◇ ◇
「パフェ! 今日は虹色で!」
マーリンが筋肉を揺らしながら叫ぶ。
「に、虹色……!?」
「可愛いは七色で完成するんだよ!」
「いやいやいや、そんな材料——」
「大丈夫! ほら!」
マーリンは自分の杖(=ダンベル)をどんっとカウンターに置く。
振動で棚ががたがた揺れる。
「代金、腕立て百回で!」
「……当店は現金払いです」
◇ ◇ ◇
三人(+一匹)の注文が重なると、厨房はまるで戦場だった。
氷を用意し、泡を立て、果物を並べて七色を作る。
私は息を切らしながら心に一行詩を浮かべる。
——混沌からこぼれるのは、詩か、それとも愚痴か。
けれど、不思議と手は止まらない。
彼らの無茶苦茶な注文さえ、カフェに音楽を与えている気がする。
◇ ◇ ◇
閉店後、帳面に記す。
——注文は混沌から生まれる。
——でも、その混沌が、日常をちょっとだけ面白くする。
インクを乾かす間、私は今日作った虹色パフェの鮮やかさを思い出していた。
◇ ◇ ◇
――次回予告――
第12話「詩人のため息、椅子の悲鳴」
「可愛いも勇敢も混沌も、全部重すぎます。……詩人の肺活量より、椅子の耐荷重が先に限界を迎えそうです」