94 銀色の毛皮と、朝の大パニック
お互いに――。
レオンハルトは「18歳の普通?の女の子にぐいぐい行きすぎた……」という罪悪感。
ミレイユは「自分からスキンシップって言い出したくせに……」という罪悪感。
見当違いの罪悪感を抱えながらも、月影狼の毛皮は無事完成。
積み上がった毛皮は銀色にきらめき、まるで宝の山のよう。
「……なんか、めっちゃ強そうな装備になりそうだな。これを盾や防具に貼れば……樹海防衛部隊、チート級にならないか?」
少しこの樹海防衛部隊という存在や樹海のこれからが気になってしまう。
完成したらハイスペックすぎて他の騎士団とのバランス崩壊。
まあ、ダリウスが隠してくれる……はず。
⸻
一つの作業が終わり、もう一つの作業に入る。
「次は火属性の粉末、でしたね。クラッカーっぽく飛び出す役目です」
ミレイユはいろんなパターンを頭の中で考えているようだ。
「火霊岩……爆撃岩……烈火岩……なんで火属性って攻撃的な名前多いんだ?」
火属性の棚にはダリウスがいうとおり、いろんな火属性の粉末があった。それだけここに出入りするぐらい、棚の中を見ていたんだろう。
「今回は弱めでいいですよね。指が吹っ飛んだら困りますし」
「……お、お前、サラッと怖いこと言うな」
レオンハルトがは焦る。だがそれもそうか
中身は魔力抑制布だから燃えたりはしない。
でも、指輪に仕込んでパンッと飛び出す。そのパンッは火薬と同じようなものだ。うっかりすると危険すぎる。
「水の深いところにある岩でも火薬みたいな役割のできるものはありますが……樹海で水中探索は怖いですよね」
「息、もたないからな」
「じゃあ土属性を探してみます」
棚をあさると――
「圧砕砂……圧力かけると砕ける……」
「名前だけそれっぽいけど、実験は外ですね」
「もう遅いし、今日は寝るか……」
⸻
問題は寝る場所。
レオンハルトは濡れた服を見下ろしながら悩む。
離れれば泣かれる。
服を着れば風邪をひかせる。
脱げば拒否られる。
別にミレイユの言い分はわかってるから、わがままなわけではないし、不快じゃないんだけどどうするかな?
「も、もう少し……クラッカー装置のこと考えたいです」
ミレイユは視線を逸らした。
完全にギクシャクしている。
「……見慣れる、とかは?」
「え?」
「ほらっ!」
レオンハルトは、そっとミレイユの横に行き、顔を覗き込んだ。
ミレイユ、凝視。
沈黙。
レオンハルト、ごくりと息を呑む。
そこまで凝視されちゃうとどうしようか?
え……?
「ミレイユ、鼻血!?」
レオンハルトは慌てて近くにあった綿を詰める。
「……すみません、耐性ないみたいで……その、うち師匠とふたりだったし、従業員さんは女ばかりで。ダリウスさんも、うちで脱いだ姿は見たことなくて、すぐには慣れません」
ミレイユはひとり落ち込む。
ずっと先ほどから隣で裸を見てたのに、全然慣れないどころか……心の中のドキドキは増している。
(こんなキラキラな人に、今夜あんなこと言ってた自分……恥ずかしすぎる……)
「ごめんなさい、心配かけて」
「いや、俺も悪い。騎士団じゃ裸は日常だから……その、馬鹿だからさみんな見せ合うんだよ。筋肉を。」
そういって、笑いに変えようとしながら、ふとレオンハルトは思いつく。
「そうだ、電気を消せば……」
真っ暗な二階。何も見えない。
「これなら、慣れるまでは安心だ」
でも二人は知らない――寝て起きれば朝が来ることを。
翌朝。
「……っ!?」
目を開けたミレイユの視界いっぱいに、レオンハルトの胸板。しかも、無意識にその胸に抱きついて寝ていた。
「な、ななななっ……!」
顔を真っ赤にして飛びのくミレイユ。
一方レオンハルトは、彼女の体温を素肌で感じていたことを思い出して――
(……俺、完全にアウトだろ……)
さらに罪悪感を深めるのだった。




