86 師匠の残した万能薬レシピ
「ほお、これで魔力抑制ができるのか。すごく薄くて軽いな」
ダリウスは真面目な顔で、ミレイユから渡された布をみる。
だが、腹の中ではおかしくてたまらない。
今日のレオンハルトの悲壮感や、カイルの思い込み。
自分だってアリエルがいなかったら同じように思ったんだろうけど、アリエルの方がこの手のことは過激だった。
まさに勝負下着に魅了の糸を縫い込んで製品を作ったのだから。
それに気づいたのは、塔の部屋で、嬉しそうに下着を縫っているアリエルがいたからだ。
「貴族から聞かれた。着るだけで目の前の男性が自分に陥落するものはないか?って」
「それはダメだ。いいかい、アリエル。人の心を変える物を作ったら、その人の人生も変えてしまうことになるんだ。もう配ったのかい?」
「ううん。まだ試着してない。何度か試して成功しないと人には出さないんだ」
そうだ。月影亭の方針だったな。
だが、ドヤ顔でいうことじゃない。
「た、ためしてないよな」
「ダリウスで試そうと思った」
それは...試されてみたいが...
「それは....効果がわからないと思う。すでに魅了されてる」
「何度か試さないと外には出さない主義なんだ。試せないんじゃダメだな」
とりあえず、俺以外で試す選択肢はなかったらしい。
それだけでも成長だ。
でも、そんな製品が世の中に出回ったら戦争も起きかねない。
絶対禁止!精神干渉するようなものは、必ず作れなかったと断るようにこんこんと説得した。
そんな思い出をふと思い出し、切なくなる。
最近レオンハルトとミレイユを見ると、昔の思い出が蘇ってばかりで、本当に苦しい。
早く助けてやりたいと焦りばかりつのる。
ダリウスは大きく深呼吸して、冷静さを保とうと意識した。
「この布はどのくらい作れる?」
「毛皮を灰にする作業をお願いしても?そうすれば、多分一日あれば隊員の人数分の数はいけると思います。あと、スライムを少し貰って帰ります」
この間の討伐で魔物魚と一緒にスライムも手に入っている。ミレイユはそれをいくつか塔に持って帰ることにした。
「あとは、甲殻魔物の殻を隊員が粉にしてくれている。なかなか硬くて大変そうだが」
機械がないので、ざらざらした岩を使ってすりつぶす原始的なやり方しかない。だがみんなでやっているので、かなりの量が粉になっていた。
「ひとつ、防具をお借りして試しに魔法防御をつけた防具を作ってみます。それができればここの拠点でまとめてつけれると思います」
ミレイユの話を聞くと、いよいよ装備も完成に近づいてきたのだとわかる。
「そうだ。ダリウスさん。師匠がかいたレシピなんですけど」
万能薬にバツがついたレシピだ。
「これ、見覚えありますか?」
ダリウスは受け取り、カイルの幼馴染に使うのだなと理解する。
「光の羽には記憶がある。妖精の気まぐれだから、手に入ったことがないって言ってたな」
ミレイユは、目を見開く
「実は、塔の近くの水場で満月の夜に手に入れたんです。
じゃあ、うまくいけばほんとに万能薬になるのかな?」
「うーん、アリエルが材料を手に入れてない段階でわからないな。」
ダリウスと唸る。
だが同時にアリエルが作れないものを、弟子がチャレンジしようとしていることが微笑ましい。
ちゃんとアリエルは人を育てたと言うことだ。
早くアリエルに会いたい。
ダリウスの胸は締め付けられるように苦しくなった




