84 魔力抑制に勝負下着?
翌朝、ほぼ眠れていないミレイユは、そっとレオンハルトの腕から抜け出し、棚にある懐かしのカイルのプレゼント――勝負下着の箱を取り出そうとした。
「なんで!なんで!食料品の奥に押し込められてるんですか!」
そうだ。恥ずかしくて私が奥に押し込めたんだった。
誰でもない、それをしたのは私だ。
必死に、音を立てないように、物を倒さないように、棚をゴソゴソしながら、レオンハルトの様子を確認する。
寝息を立てている。大丈夫だ。
箱をキャッチしてほっとし、3階に急いで上がる。
もちろん、レオンハルトがその音を聞きながら起きていることなど、知らないままだった。
3階に上がり、最後につけてね、というカイルのメッセージ付きの箱を開ける。
あの時は、恥ずかしくてすぐに押し込めた下着だが、そもそもどんな下着かもじっくり見たことはない。
そっと箱から出すと……あれ?軽い?
小さく折りたたまれコンパクトになっており、箱も片手で隠せるサイズだが、中身はさらに圧縮されている。
箱の中には、中身が見える可愛い透明袋が入っていて、おそるおそる、ごくんと唾を飲み込みながら下着を取り出した。
開くと……え?これなんですか?
どこにどうやって着るの?というくらい小さいくせに、生地は向こうが楽々透けて見える。
「これ?下着?もう着なくていいんじゃ……」
普段見ることがないので、思わずじっと眺めてしまう。
軽い、透ける、面積が小さい……
あれ?何か引っ掛かる?なんだろう。
そうだ!月影狼の毛皮だ。魔術師の魔力抑制に使えるかも。
ミレイユはその生地を何度も触る。
魔力抑制のために、魔術師に一時的でも魔力制御できるものをかけるなら、こんな薄さでいいのだろうか?
そうすれば重くなく、ふわりと投げ網のように出せる。
向こうが透けるようにするなら、毛皮を糸状にするか、毛皮を灰にして魔力で固めなおすか……
さらにじっと、顔にかかりそうな勢いで下着を広げる。
透ける部分の肌触りは、綿とは違い、つるつるしている。
スライムを混ぜる?下着の生地は水は抜けるが、多少は弾く。
だとすればどのくらいのスライムを入れればいいのか……
ーーー
その様子を、レオンハルトはそっと見ていた。
段々お互いの距離が近くなりすぎて、昨夜は眠らせようと思ったのに、やっぱりキスをすると止まらなくなりそうだった。
昨日、明らかにミレイユは途中で拒否したよな……
ああ、がっつきすぎたか。
でも、どうして勝負下着を持ってあれほど考え込んでいるんだろう?
昨日、カイルの勝負下着を断ったことと関係あるのか?
もしかして逆か!「またキス止めかよ」と思われたのか?
レオンハルトは蒼白な顔で、少し前のことを思い出す。
それは、宰相アドリアンとダリウスと別れた後の夜のこと。
いろんなことがあって気持ちが昂り、
「すべてが終わったら一からちゃんと口説く」
と言っていたのに、勢いでベッドに押し倒してしまった日のことだ。
そうなのだ。
ベッドに押し倒したのだ。
そして、押し倒して……抱きしめて、口づけして……
終わったのだ……。
それがいけなかったのか。
ミレイユに勝負下着を着ないといけないと思わせてしまったのか?
そういえば昨日、キスを拒否されたと思ったけれど、最後に唇を求めたのはどっちだったか。
俺?ミレイユ?う……わからない。お互い夢中になっていた。
ここまでお膳立てしてやっているのに、このヘタレが!って18歳の女の子に思われたのか。
いや、でも、そこを超えると後でミレイユが後悔しないか心配なんだ。
俺、ちゃんと君のこと考えてたんだけど……もう愛想尽かされただろうか。
勇気を出して聞く。
「ミ、ミレイユ。その、それ……そんなに気になるかな?関心あるというか……」
レオンハルトはどう聞こうか迷いながら、そっと声をかけてみる。
ミレイユは顔を上げ、真面目な顔で言った。
「これ、すごく気になります。この透ける感じとか、向こうの見え方とか、面積の小ささとか、全てが気になります」
そう正面切って言われて……。
「わ、わかった。」
(カイルに相談しよう。もしかしたら、2枚目がやっぱりいるのかもしれない)
レオンハルトはふらふらとその場を立ち去った。




