8 失敗作の剣と嘘の指輪
(と、とりあえず……頼まれた物を渡そう)
レオンハルトは深呼吸し、簡潔に経緯を話し始めた。
ダリウスとの会話、言われた通りに店へ行ったこと、しかし話と違う状況だったこと――。
監視がついているかもしれない危険な空気の中、押し問答する余裕もなく、受け取らざるを得なかったことを淡々と。
「……で、落ち着いて調べたら、渡すはずの指輪が……どう見ても師匠アリエル殿宛じゃなくてな。しかも男性用っぽかったから……つい、サイズ確認も兼ねて……」
最後は気まずそうに視線をそらす。
「……すまない。軽率だった」
ミレイユは黙って考え込む。
その姿をレオンハルトは観察していた。
(十八歳って聞いてたけど……しっかりしてる子だな)
錬金術の勉強をして、若いうちから店に立っていたのだろう。
ふわりと揺れるピンクブロンドの髪、小顔に長いまつ毛、人形のようにぱっちりとした瞳――。
(……この顔で店番されたら、物を買わなくても見に来る客
がいそうだな)
やがて、ミレイユが口を開いた。
少し言いにくそうに視線を落としながら――。
「……師匠が作った指輪を、師匠に渡すことは、まずないと思います。だから……その、『プロポーズ用の指輪』って話は、嘘かと」
申し訳なさそうな声色に、レオンハルトの胸がちくりとする。
「いや、ここまでで、もう嘘だろうなとは気づいてた。だから気にするな」
「で、でも……信じてください! あの二人は、そんな人たちじゃないんです!」
慌てて顔を上げるミレイユ。
「交際だって、とても真剣でしたし、少なくとも師匠は多額の物を買うことなんてまずありません。店のお金は私が計算してましたが、隠し金や流用も……絶対にないです!」
必死な瞳は、真っ直ぐで濁りがない。
――この娘は、嘘をついたら一発でバレるタイプだな。少なくとも、この件はシロだ。
「あ、あとですね……」
今度はミレイユが少し言いにくそうに続けた。
「その刀は、実は素晴らしい刀なんですけど……失敗作で、ダリウス様が買い取ってくださった物なんです」
「失敗作?」
ミレイユがまだ、付与のコントロールがうまくいかなかった頃、武器屋からの注文で、攻撃力を“1.5倍”にする付与を施すはずが――誤って“15倍”にしてしまったのだという。
「攻撃属性15倍って……もはやチートだろ。皆、大喜びじゃないのか?」
「そ、それが……普通、攻撃すると多少の反動が返ってくるんです。それが15倍になると、反動も15倍……。耐えられる人はほとんどいません」
「ああ……なるほどな」
一振りするたび吹っ飛ばされる剣――確かにダメだ。
「ですが剣そのものはとても良い物でしたので、いつか使える人に渡すからと、買い取ってくださったんです。
お客様にはお詫びも兼ねて、師匠が同等の良い剣に、相手が望む特性を全部つけてお渡ししましたので、トラブルにはなりませんでした」
(……これと似た剣に、攻撃属性以外の特性を山ほどつけたら、そりゃ喜ぶよな)
――もしかして、こうやって色んな物を買い取ってたから金がなくなって、横領とか……。
レオンハルトの心の声が顔に出ていたのか、ミレイユが慌てて追加する。
「け、剣本体は高いですが、付与なしの金額なのでダリウス様なら一か月分のお給料より安いです!
それに、せっかく買い取っていただいたので、私が練習も兼ねて色んな特性を付けて……少しはクオリティ上がってます!」
(……俺に使いこなせるからくれたのか、行き場がなくて押し付けられたのか……。総司令官の誠実なイメージが揺らぐんだが)
「悪いが、試し切りしてもいいか? 本当に俺が使える物か、確かめておきたい」