77 別れを願う愛
最初の頃は....
王とライナルのことで、嫌なことがあったら全てを打ち消すようにダリウスに抱きつき、起きたことをぽつりぽつりと話していた。
誰かに聞いてもらいたかった。
触られて気持ち悪い感覚、盛られる毒。
だが、その話をしたらダリウスの顔色は変わった。
ダメだ。すべてを知られれば、ダリウスは私を守ろうとして危険に巻き込まれるかもしれない。
「大丈夫……大丈夫」
自分に言い聞かせて、相談も出来なくなってきた。
日記にも書くことが辛くてかけなくなった。
頭の中は混乱していた。
防御魔法も浄化魔法も最大限に使った。
それでも消えない。これは私の思いだ。
私が離れれば、ダリウスは幸せに生きられる。
貴族の女性たちは、彼と踊りたがり、話したがっている。
私は、その邪魔をしているのだ。
「ダリウス、ミレイユが独り立ちしたら、別れて。
私、実は愛するって感覚がずっとわからない。このまま一緒にいても、無駄なの」
ダリウスは目を見張った。
「アリエル……突然どうした? ミレイユはまだ18歳だろ?独り立ちってなんだ?」
「もう自分で店を持てる。それに18歳はダリウスと会った年齢よ」
そう、もうミレイユは大丈夫。
早くミレイユもわたしから離さないと危険。
「店が持てるのは家族の支えがあるからだろ」
ダリウスは慌てたように話した。
「では、ミレイユに、安心できる人を探して」
「君と俺でいいじゃないか」
(それでは、あなたはわたしから離れられない。
自分の子供でもないのに....わたしは彼の人生になんてことをしたんだろう)
「あなたは私と別れたら、ミレイユとは他人。でも、もし私に何かあったら、彼女に家族はいない。だから、安心できる人を....」
ダリウスの顔色が変わる。
「アリエル、何があった? 王か? ライナルか?」
アリエルは、首を振った
「嫌がらせはあるけど、それとは関係ない。ずっと別れたほうがいいと思っていたの」
アリエルはキッパリ言った。
ダリウスを王から守りたい
――そして早く、ミレイユとダリウスを私から離したい。
「ダリウス、何度も言う。私、愛するって感覚がわからない。ミレイユに対しても愛するってわからない。」
(お願い、お願いだから、わたしから自由になって幸せになって)
「そうだ、この短剣……これ、ミレイユに渡して。もし、わたしに何かあったら家族になってくれる人に預けて。
あの子には、何かあったら塔に行けるようにしてあるから」
ダリウスは頭を抱えた。
アリエルは、明らかに支離滅裂で混乱している。
突然別れ話をしたかと思ったら、明らかに身の危険も訴えている。
ここ最近、王との謁見後に不安定になって別れ話を何度もしてくる現象が起きていた。
だが、詳しく何があったか聞いても、なんてことない感じで大丈夫だという。間に入ろうとしても、魔導炉のことだからと断られる。
アリエルは半端なく強いから、確かに何されても大丈夫だろうが....
だが、今日みたいに、こんなに興奮しているアリエルも初めてだった。
なにかの糸が切れてしまったように見える。
実は、アリエルの話とは別に、ミレイユにいいんじゃないかと思う会わせたい男性がいた。
第一騎士団の団長で、腕も立つ。いろんなことがあって、女性が苦手なところもあるけれど、18歳のミレイユにはちょうどいい。少し自分の若い時にも似ている。
良い出会いになれば、アリエルも少し安心できる――そう考えていた。
「わかった。ちゃんとミレイユには良い人を探すよ。
俺とのことは落ち着いたら、ゆっくり決めよう」
ダリウスはとにかく落ち着かせることを優先する。
だが、なぜ彼女が落ち着くまでじっくり話さなかったのか?
なぜ、彼女は強いから大丈夫なんて思ってしまったのか?
ダリウスは後々、この判断を後悔することになる。




