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《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる  作者: かんあずき


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72 万能短剣の真実と、報われぬ恋

レオンハルトは認めざるを得なかった。


――俺も相当ミレイユに影響されてるな。


カイルやみんなからどうするんだ?といわれて


迷わず魔物よけの鈴を鳴らし、全部の魔物の遺体から、魔核を取り出し、皮や肉、目玉や血や骨に分けるよう指示を出して、黙々と作業する。


まるで職人だ。

ついこの前まで、こんなことできるわけなかったし、しようとも考え付かなかったのに。


氷結されたカニもどきだけは、そのまま持ち帰ることにした。今夜はカニだ。



「なんか、今のレオンハルトを見てると……若い頃の自分を見てるみたいだね」


そう言ってダリウスは、ミレイユに渡した短剣とそっくりのものを取り出し、魔物を捌き始める。

その手際の良さに思わず見入ってしまう。


――未来の俺って、こうなるのか?


「なあダリウス。いくらなんでも討伐経験ゼロのミレイユに短剣渡すのはどうなんだ? 結局、属性なかったらスライム一匹も倒せなかったんだぞ」


俺が睨むように言うと、ダリウスはぽかんと口を開けた。


「は? 当たり前じゃないか。なんでミレイユが討伐用に短剣使うんだ?」


レオンハルトも、へっ?と言う顔になる。


「いや、どうやって生活するんだよ」


「だからレオンハルトを付けたんだろ? あの短剣は万能生活道具なんだから」


「……万能、道具?」


「そう。捌くのはもちろん、水属性ならシャワー。氷で物に突き刺せば、冷凍庫。風で扇風機や強くしたら冷蔵庫。火で調理器具。便利すぎる一本だ」


「……は?」


いや、知らねぇよ!


「アリエルが作った時に俺に説明して、『なんかあったらミレイユに渡せ』って言ってたから、てっきり使い方知ってるもんだと思ってた」


「……」


「で、どうやって生活してたんだ?」


「……近くの水場で彼女は体洗って、慣れない焚き火で料理して、例のものを使って自分の家のタウンハウスと往復できるとわかってからは、家のものを使ったけど」


流石に、部屋で二人きりなだけでもかなり言いにくいのに、風呂に入れたとか言えないだろ。ちょっと濁す。


沈黙。ダリウスも唖然とした顔をしている。


次の瞬間、周囲の隊員たちがどっと笑った。


「いやいや! そこまでいってまだ婚約者願望レベルなんですか?奥手すぎるだろ!」

「焚き火って。樹海で彼女にそこまでやらせます?」

「二人っきりで一週間、着せ替えつきですよね」


「ぐっ……」

笑われるたびに心がえぐられる。


「まあ、相当奥手だな。ミレイユとの関係もまだあんな感じなんだろ?」

ニヤニヤするダリウス。


くそっ……父親代わりの男に「奥手」呼ばわりされるってどうなんだよ。


「じゃあダリウスは? このあと、前部隊長と結婚するのか?」

ふと気になって問うと、彼は寂しそうに笑った。


「ああ……そうしたいけどな。でも、もし父が国王になったら……さすがに無理かな」

「……え?」


周りの笑い声が、すっと消える。


「彼女が誰よりも愛しい。だから、自分の命も、一緒にいたい、結婚したいって欲望を投げ出してでも、アリエルを助けに行く。……でも、今回、貴族の力を借りすぎた。だからもう、彼女と一緒になる未来はないと思ってる」


「……本気で言ってるのか?」

俺が思わず問い返すと、ダリウスは頷いた。


「本気だ。公爵と平民というだけでも厳しかった。だが、今度もしクーデターが成功したら自分の家は王家だ。流石に周りも納得しない。新たな火種を作ってはいけないしね。もし、有力貴族からの縁談があれば流石に断れないだろうな」


ダリウスは、少し手を止めて切なそうに空をみつめた。


「それに、こうなる前からアリエルに何度も言われていたんだ。『ミレイユが独り立ちできたら、平民の自分とは離れろ』ってな。……実は、愛するって感覚がわからないから、どれだけ想ってもらっても意味がない、って」


「そんな……」

誰かが小さく呟いた。


解体していた手が止まり、隊員たちも黙り込む。

涙ぐむ者もいた。


ダリウスが月影亭のアリエルを溺愛していたのは有名だ。

その彼が、彼女のためにクーデターを起こそうとしている。

なのに、その先に待つのは――報われない恋なのか。




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