7 外すな危険! 転移指輪が縁を結ぶ
レオンハルトとミレイユは、同時に息を呑んだ。
視線がぶつかり――そこにあるのは驚きと混乱だけ。
(……なんで娘が目の前に!? しかもここはどこだ!?)
(だ、誰この人……! しかも怖そう!!)
ミレイユは、味方か敵かわからない男が突然現れたうえに、丸腰の自分をさらけ出している状況に心臓が跳ね上がった。
昨日のあの、リンチじみた尋問の記憶が蘇り、勝手に肩が震える。
「あ、あのっ……ど、どちら様でしょうか……?
わ、私は本当に何も……! 何も知りませんから! 許して……!」
ガタガタと後ずさるミレイユに、レオンハルトも内心で冷や汗をかく。
……やっぱり、前に店で見た子だな。
でもこれ、完全に俺が脅してる構図じゃないか。
もちろん女性を怖がらせる趣味なんてない。
けど、「物を渡して即撤退」というわけにもいかない……困った。
「お、落ち着いてくれ。私は第一騎士団団長、
レオンハルトだ」
両手を見せて、できるだけ低い声で続ける。
「驚かせたのは謝る。
実は……私の上司が、君のお母上と交際していてな。預かり物を――」
そこで息が止まる。視線が自分の左手に落ちた。
(……指輪……俺が……はめてる……?)
血の気がスーッと引いた。
渡すどころか、勝手に指輪をはめた状態で現れた騎士――
どう見ても不審者だ。
(……俺、何やってんだ……)
ミレイユの視線も、レオンハルトの左手に吸い寄せられる。
「そ、その指輪……!」
「す、すまない。今外す」
「ダメ! 外さないで!!」
外そうとした手を、ミレイユが重ねた。
手が触れた瞬間、レオンハルトの指先にミレイユの体温が移ってくる。
(……あ、温かい)
だが....恋愛経験値の低い二人。
その重なった手を、二人でまじまじと見つめ
ーー慌ててパッと離す。
耳まで真っ赤。
(俺たち子供か!!)
「ち、違うんです。それ、空間移動の術式が仕込まれてるから!」
ミレイユは真っ赤な顔で、両手を胸の前にぎゅっと握りながらも、指輪から視線を外さない。
レオンハルトは恐る恐る問いかける。
「……わかるのか?」
差し出された指輪は、リング幅が広いところで一センチ。
そこに楕円形の魔石が埋め込まれている。
鈍い赤色がかすかに光るが、レオンハルトにはただの石にしか見えない。
「すみません、少し拝見します」
ミレイユは一呼吸して、まず断りを入れてから、レオンハルトの手を取った。
その仕草から、物を扱う誠実さが自然と伝わってくる。
「……指輪は....色々伺いたいことがあるので、今は外さないでください。外すと、元の場所に戻ってしまう可能性があります」
「なるほど」
「この石、決められた場所だけ移動できる術式です。おそらく私の師匠が、ここ――この魔法陣に到着するよう作った物ですね」
そっと手を離すミレイユ。
レオンハルトは、手が離れたことと、ミレイユ自身に危険性がなさそうなことに安堵しつつも、内心で叫ぶ。
(総司令官! なんで俺にこんな指輪を渡すんだ!!)