60 尋問中なのに、笑いと赤面が止まらない
カイルは悲しそうに目を伏せたが、ふっと笑った。
「……途中からそうだろうなって思ってたよ。作ってやるなんて、ただの口約束だし。いつまで経ってもつくってもらえない。そもそも、そんな薬が存在するのかも怪しいしな」
「病気なら、普通に薬師に診てもらえば――」
「それも試したさ。薬は買って持って行っていた。でも、もう効かないんだ。長く患ってたみたいでな……。もう俺が戻れないのはわかってるし、彼女もただ苦しみが延びるだけならこれでよかったのかもしれない」
カイルの目は遠くを見つめていた。
「あ、あの……」
遠慮がちに手を挙げたのは、元第一騎士団のカミルだった。
「カイルの言ってること、その部分は本当です。……その子、もう客が取れなくて別の階にいるんですけど。それでも薬を買って、持って行ってるの、俺、見たことあります。娼館の女の子からも聞きましたし」
レオンハルトは腕を組んで、低く問いかける。
「……で? 何の情報を出してたんだ」
「第一騎士団の配置とか、人間関係とかメンバーの性格とか実力とか。誰でも知ってるようなことばかりですよ。……情報というより、“王の駒”を各団に仕込むのが目的だったんでしょう。だから俺も、ここに来るまでは、たいした罪悪感はなかったんです」
そこでカイルは、わざとらしく思い出したように笑った。
「――ああ、でも。この間団長の情報を出してしまったな」
「……何を言った」
「“未成年に手を出して、一週間休みをとって、タウンハウスで着せ替えごっこして楽しんでる”って」
「なっ――!?」
レオンハルトとミレイユの顔が同時に真っ赤に染まった。
「着せ替えごっこって!!」
そして、周りの隊員が一気に引き気味になる
「ちがう!それは!!」
レオンハルトは慌てる。
カイルはにやりと投げやりに言う。
「え?でも、ミレイユちゃんは婚約者って俺に言ってたじゃないですか。そう言う関係なんですよね。
しかも張られてたのに、ミレイユちゃんが見つからなかったってことは、一週間、外に一切出ずに、俺に頼んだ服を着せ替えて遊んでたんでしょ」
さらに、周りのざわつきが激しくなる
「着せ替え.....隊長...そんな趣味が...」
だがこっちも、動揺している。
「こ、婚約者.....!」
ミレイユは口に手を当てて、真っ赤になる
「い、いや違う!違うんだ!!」
レオンハルトはなんでこんな状況で、こんなこと言うんだとパニックになる。
いくらカイルもやけっぱちになったからって、それ言わなくていいだろ!!
「婚約者っていったのは....その、、、」
ミレイユが思わず聞く。
周りの隊員も
「その???」
と思わずのめり込んで聞く。
「たのむ、みんな。今は聞かないでくれ。願望で、そこまでの関係になれてないんだから」
レオンハルトは真っ赤になる。
しばらくして、隊員の誰ともなく吹き出す笑い声が聞こえた。
「隊長って、実は無茶苦茶奥手だったんですね」
「俺もミレイユちゃん、着せ替えたいです。わかりますよ」
「いいな。ミレイユちゃん彼女なんだ」
くすくすと笑い声の響く中、ミレイユは顔を覆った。
その時背後から二つの影が近づいてきた。
「もっとお葬式かと思ったんだけど思ったより楽しく過ごしてそうな声がしたが、なによりだね」
その影は元総司令官のダリウスと、宰相のアドリアンだった。




