6 押しつけられた剣と指輪が、とんでもない厄介事の始まりでした
レオンハルトは、もらった剣をじっと見つめていた。
(試し切りはまだだけど……手に馴染む感じがすごい)
刀身を光にかざすと、刃紋が細かく波打ち、鋼はまるで透き通った水のように艶やかだ。
(汚れのない世界が映っているみたいだ……)
そして、魔力の属性が宿っているのを感じる。
こんな時鑑定スキルがないのは惜しい。
(これ、ただものじゃない。相当な高級品だろうな)
ただ、総司令官が横領した疑いが頭をよぎり、こんなもの受け取っていいのか迷う。
いや、もう受け取っちゃったけど……
これからどうすればいいんだ?
ふと、頼まれていた指輪のことを思い出す。
(総司令官から頼まれた相手は恋人じゃなかったのか?なぜか「娘」ってことになってる?
しかも娘って誰だ? 総司令官の彼女の娘のことか?どこにいるかもわからないのに……)
指輪のケースをそっと開けてみた。
中の指輪は、男性の中指にぴったり合うほど大きくて重厚だ。
魔石には複雑な細工が施されているが、詳しいことはわからない。
(ただのプロポーズ指輪じゃない、これは)
一つだけ確かなのは、俺は総司令官に騙されて、知らぬ間に面倒なことに巻き込まれている、ということだった。
「おいおい……誰にも相談できないじゃないか」
錬金術師の娘はまだ尋問を受けているはずだった。
(まずは明日、娘の様子を聞いてから動こう)
――
翌朝、騎士団の朝練で、こんな噂が流れていた。
「あの錬金術師の娘、尋問で何も話さずに逃げたって本当か?」
「ありえねえ……あんなに警戒されてたのに」
レオンハルトは、耳に入ってくる噂話に眉をひそめる。
(さて、これからどう動くか……)
朝練を終え、こっそりと有給休暇の申請を出す。
「総司令官のことで疲れてるんだろ」と、周囲が勝手に察してくれたおかげで、申請はすんなり通った。
部屋に戻り、カーテンを引いて鍵をかける。
机の上に置いたのは、先日預かった短剣と指輪、そして自分が受け取った剣。
短剣には「ミレイユ」と刻まれている。
(尋問にかけられていた総司令官の恋人の娘の名前もミレイユ……やはり娘とは恋人の娘だろう)
指輪にはイニシャルなどの印はない。
ケースのクッションをめくると、小さな紙片が現れた。
『すまない。指輪はお前にやる。力を貸してほしい』
「……ざっくりしすぎだろ」
思わず低く呟いた。
何を、どこで、誰に対して貸すのかも書かれていない。
更に、男から指輪を贈られる趣味はない。
とりあえずもらった物は表には出せない。
まとめて片付けようとしたその時、ふと気になって指輪をはめてみた。
サイズはぴたりと合った。
──瞬間、視界がねじれた。
「……なるほど。こういう仕掛けか」
床に足がついた頃には、すでに理解していた。
転移魔法の発動だ。
ーーー
目の前にいたのは、煤で顔まで汚れ、焚き火を慌てて消そうとしている少女だった。
その慌ただしさとは対照的に、レオンハルトは軽く眉を上げる。