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《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる  作者: かんあずき


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59 裏切り者の告白、暴かれる魔術師団長の影

「魔術師団長ライナル……それ、本当なんですか?」

思わず声が出て、ミレイユはカイルを見つめた。


師匠の日記の最後には、何度も“気持ち悪い感覚”と書かれていた。

そのことは、ダリウスにも相談していたはずだ。


カイルは笑っているのか挑発しているのか、つかみどころのない目を向けてくる。

「し……んじる?」


「あなたが寝返るかどうかなんて、私には分かりません。でも……ライナルのことを知っているなら、教えてください」


思わずミレイユはカイルの口元にハイポーションを流し込む。

瞬く間に傷が癒えていき、カイルはニヤリと口角を上げた。


「へえ……君ってさ、悪魔にも天使にも見えるよね」

「……」

「でもね、すぐ気になることに飛びつくのは、軽率だと思うけど?」


「待て、ミレイユ!」

慌ててレオンハルトも止めに入る。

「こいつはまだ寝返ったわけじゃない! 危険すぎる!」


「すみません。でも……私は彼から聞きたいことがあります。師匠の命に関わることなんです。それを知らなければ、協力なんてできません」



きっぱりと言い切り、レオンハルトを睨み返す。

その目に押され、レオンハルトは思わず言葉を失った。


「一週間で彼女を落とせなかったんだ。……いやあ、いい顔してる」

カイルはにやつき、肩をすくめる。


「どうせ任務は失敗。王のジジイに殺されるくらいなら、可愛い子に殺される方がマシだ。さあ、聞きたいことは? 知ってる範囲で答えるよ」


「……それは、こっち側につくってことか?」

レオンハルトが探るように問いかける。


「いや。俺にだって王についた理由はある。だけど結局はどっちも王の傀儡だろ。任務に失敗した以上戻れないってだけさ」

カイルは目を伏せ、ぽつりとつぶやく。


「……ミレイユちゃんの正義は、理解できる。正直、死にかけてハイポーションぶち込まれるのは地獄だったけどな。女性にやる趣味は、俺には理解できないが」


「し、師匠は……そんな目に遭ってるんですか?」


「正確には知らない。でも、そうだね。やたらポーションを求めているのは確かだ。町中のポーションを魔術師団がかき集めているというのは聞いた。最初は月影亭がなくなったからかな?と思ってたよ。

この体験をしてみて、そういう利用方法もあるのかもなって思っただけ」


「じゃあ、ポーションのすり替えは?」


「セリオの話じゃ、ライナルの命令で、前の樹海防衛部隊長が作ったポーションをライナルが作ったものに取り替えろって命令があったらしい。俺もここに来て初めて知ったんだ」


ミレイユの背筋が凍る。

師匠が危惧していたこと、そのままだ。


カイルはため息をついた。

「俺の任務は第一騎士団の情報を王に流すことだった。でも異動で樹海に入ってからは、“魔物を狩りまくれ。魔核を集めろ”に変わった。……騎士団の命なんてどうでもいい、って調子でな」


「……どうして、そんな王の影なんかに?」

ミレイユは気になって問いかける。


「くだらない理由だよ。昔馴染みの子がいてさ。貧しい村の中で一緒に生きてたんだが、貴族の家に貰われて……結局、搾取されて娼館に売られたことを知ったんだ」


「……っ」


「自由にしてやる金なんてないから、せめて通った。行為目的じゃない。ただ……彼女、病気をもらっててさ。ポーションじゃ治らない類の病気だった」


「ハイポーションであっても、病気は治せません……」


「だろ? だから最初に話を持ちかけられた時は飛びついた。“樹海防衛部隊長なら、死ぬ病でも治せる万能薬を作れる”ってな」


「……それは誰から?」


「総司令官になったユリウスだ。レオンハルト、お前の情報や第一騎士団の動きを流せって囁かれた」


「……!」


「最初は信じなかった。でも王に直々に言われたんだよ。私なら万能薬を頼んでやれるってな。前の総司令官が王の甥だし、流すのはどうせ王も知ってる情報ばかりだろうから問題ないと思ってた。ユリウスが嫉妬してるんだろ、くらいに思った」


カイルはレオンハルトに視線を移し、続ける。


「でも、流れが変わった。総司令官が横領で恋人と飛んだ。万能薬を作ってくれるはずの前の樹海防衛部隊長は魔術師団長の配下にになったと聞いた。月影亭のオーナーが前の部隊長だなんて知らなかったしな。更には、俺たちが防衛部隊になる命令が下った。おかしなことが次々起きているという気持ちだったよ」


カイルは悔しそうにつぶやいた


「そうしたら話も変わった“万能薬は魔術師団長が作る。その代わりに第一騎士団に樹海の魔物から魔核を集めさせろ”ってな。万能薬には大量の魔核が必要だとよ」


「……万能薬は、まだ作れません」

ミレイユはまっすぐカイルを見つめて言った。


「師匠でも完成させられていないんです。ライナルにできるはずがない。だって……」


偽のポーションを指差す。

「私でも、師匠でも、この材料を使ったら効果が落ちたと思わせないぐらいのレベルの偽物効果を出せます。こんな低レベルの偽物しか作れないなら……その程度の錬金術師なんです」


声は静かだったが、奥には怒りと悔しさが滲んでいた。


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