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《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる  作者: かんあずき


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58 愛しているから、君を永遠の魔力源にする

魔導炉の魔力が、まだ足りない。

淡いピンクに光る動力炉の発光が少なすぎる。


意識がなく魔力遮断の鎖に縛り付けられたアリエルの細い腕から血を少しずつ抜き取って魔力へと変換する。


息が止まりかけても、ハイポーションを流し込めばまた復活する。

彼女が作るような上等な薬じゃないせいで効果はいまいちだが……それでも、死ぬには早い。


「……ああ、そろそろ死にそうだね。でも駄目だよ。まだまだ君から魔力をもらわないと」


アリエルの頬をなでる。

だがその瞬間その美しい顔を壊してしまいたい衝動が、一瞬、胸をよぎる。


苛立ちが胸をかきむしる。

俺がどれだけ魔術を極めても、

どれだけ想いを寄せても――

彼女は振り向かない。

いや、俺を視界に入れることすらない。


憎らしいほどに、美しい。

愛しくて、許せなくて。

殺そうと試したこともあるが、彼女の力に弾かれて失敗した。


……やっぱり、すごい人だ。俺が愛するにふさわしい。



初めてアリエルを見たのは十年以上前。

当時の俺は平民出の魔法兵で、魔術師団の中では“有望株”と呼ばれていた。


戦場に出れば、ひと振りで敵兵の塊を吹き飛ばす。

神にでもなった気分だった。


けれど相手は大国。

魔術だけでなく科学も進んでいて、俺の力では押し切れなかった。

そんな時、魔術師団長オルフェンが“助っ人”として寄越したのが――アリエルだった。


まだ若い。

しかも俺と同じ平民。

なのに「樹海防衛部隊長」。……俺より格上。


プライドがズタズタにされた。

しかも、挨拶しても完全に無視。

俺なんて眼中にない。


腹立たしさで爆発しそうになったその時、敵の爆撃に巻き込まれた。


灼けるような痛み。

「くそっ、俺が……こんなところで!」


視界が霞んでいく中、唇に柔らかい感触が走った。液体が流し込まれる。


――ハイポーション。


俺を助けていたのは、アリエルだった。


「……お前、に……?」


怒りが込み上げた。

よりにもよって、俺が救われるのか?彼女に。


しかも、彼女はいろんな兵の口にハイポーションを自らの口で注ぎ込んでいた。

恥辱だった。

彼女から見て、他の兵と俺は同じ存在なのか。


更に、次の瞬間、俺は言葉を失った。


彼女は敵の陣を一人で薙ぎ払っていたのだ。

あたり一面が焦土になっていた。

今まで俺は目先の兵を倒すことですごいと思っていたのに。


……勝てない。

こんな存在がいるのか。


俺は彼女に助けられ、そして魅入られた。



それから俺は必死に錬金術を学んだ。

錬金術なんて、魔術師になれないやつが、魔術師のような高揚感を味わうためのものだ。


だが、そんなものに私は助けられた。

けれど、どんなに頑張って作っても彼女の作るポーションには一度も届かない。


王都で評判の月影亭にも足を運んだが、そこにあった薬はどれも“似ているだけ”。

あの時の、あの力強いハイポーションではない。


結局、いまだに越えるものは作れなかった。



やがて俺は魔術師団長となった。

アリエルは今も樹海防衛部隊の隊長だという。


ならば、手を打つだけだ。

王を使い、アリエルをこの国に縛りつける。


この国は弱い。未来を見通す力もなく、身分ばかりを気にして衰退していく。

いずれ大国が攻めてきたら一瞬で滅ぶ。


……だったら俺が利用してやる。


魔導炉を作り、樹海の魔物から魔力を注ぎ込む仕事を与える。

そうすれば、彼女とずっと会い続けられるし、この国の戦力も上がる。生活も豊かになる。


もし拒否するなら――彼女自身を、魔力源にすればいい


結果として――

彼女は俺の提案を、何度でも突っぱねた。


王から圧力をかけさせても、毅然とした態度で、揺るぎない眼差しで俺を拒む。

……その冷たい視線が、たまらなく憎かった。


そして調べてわかったことがある。

彼女は「月影亭」を経営し、そこから優秀な錬金術師を育てていた。

さらには、総司令官ダリウスと恋仲だということまで。


――許せるわけがない。


結局、お前も貴族の男に媚びを売る女だったのか。

俺は純粋に、国のために、そしてお前のことを想ってきたのに。


ならば報いを受けてもらおう。

この国の魔力炉に繋がれ、永遠に魔力を搾り取られる存在としてな。


ライナルは、口の端を歪めて笑った。


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