表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》錬金術師の一番弟子は国から追われる  作者: かんあずき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/167

53 万能包帯では止められないもの

レオンハルトは仲間に背を向けて、指輪をみんなに見られないように、そっと取りつけた。


――これが転移用のポートだなんて、知られない方がいいだろう


だが、この壕の中にいるものが、自由に外に出られ、物資も手に入れることが出来るという“安心感”くらいは、みんなに与えておきたい。


長すぎる一日が、ようやく終わろうとしていた。


塔の扉を押し開けると、気配が走る。……四階か!

「ミレイユ!」


その声に、ミレイユが階段を駆け降りてくる。

次の瞬間、二人は抱きしめ合っていた。


レオンハルトは張りつめていた緊張から解放されて。

ミレイユは真実を知った不安から。


だからこそ、互いに安心を貪るように、強く、強く抱きしめ合った。

時間が止まったかのように、二人はそのまま動けなかった。


――やっぱり俺はミレイユが好きだ。

――ずっとそばにいてほしい。


それぞれの胸に、はっきりとした想いが刻まれる。


だがそこで、ミレイユの目に映ったのは――レオンハルトの背に広がる血だった。


「す、すごい血じゃないですか!? ちょっと、見せてください!」


慌てて服をめくろうとするミレイユに、レオンハルトは苦笑を浮かべる。


「ああ、色々あったけど……君のおかげで助かった」


そう言いながら、ダリウスとのやり取りも含め、現状を語った。


「ぶ、無事でよかった……」

ミレイユは力が抜ける。


だが、レオンハルトは続けた。

「ただ……君がくれた万能包帯じゃ、血は止まらなかったんだ。せっかくのものを、無駄にしてしまった」


「……それは」

ミレイユは顔を真っ赤に染める。


「万能包帯は、傷を塞ぐのには向いてますけど……出血は止められないんです」


(……な、なんで最初にハイポーションを使わなかったんですか……!ああ!)


ミレイユが気づいてさらに赤くなる横で、レオンハルトはきょとんとした顔。


「でも前に、もっと深い傷でも万能包帯で治っただろ? だから……」


「あ、あの……」

観念したミレイユは、恥ずかしさに震えながら打ち明ける。


「実は……あの時、意識がなかったから……口移しでハイポーションを飲ませました」


「…………」


レオンハルトは固まった。

自分の唇に手を当て、驚愕に目を見開く。


「……え?」


「ひ、必死だったんです! 同意がなかったことは謝ります!で、でもあのままだと死んでたし、わ、私だってファーストキスだったし……そ、その……許して……」


しどろもどろに言う彼女を、レオンハルトは静かに見つめた。

そして、低く囁く。


「――やり直させて」


「へ?」


「もし、この先……君の気持ちが変わったとしても。俺は君が好きだ。全部終わったら、ちゃんと口説きに行く。その時、振ってくれても構わない」


レオンハルトの眼差しは真剣だった。

「だけど今……許してくれるなら、そのファーストキス、やり直したい」


そう言ってミレイユに顔を寄せる。吐息が触れる距離。

ミレイユは拒まないことを確認する。むしろ、震えるように目を閉じた。それを見てレオンハルトはほっとする。


柔らかな感触が、そっと重なる。


最初は触れるだけ――のはずだった。

だが、レオンハルトの唇は深くそのまま、ミレイユに逃げ道を与えなかった。


「……んっ……」


思わず漏れた声に、ミレイユはさらに赤面する。

けれどレオンハルトは角度を変え、そのまま、深く続けていく。


お互いが、お互いを求め、熱が混ざる


お互いの吐息が漏れ、

息を奪われても、より求め深く。


――だめ、苦しい……でも……いやじゃない。


足が震えて力が入らないのに、狭い階段で壁とレオンハルトにより、体は支えられている

だが、彼の指が頬に触れ、ミレイユを求め、首筋をかすめるたびに力が抜けそうになる。


「……ミレイユ……」

低い色っぽいレオンハルトの声にぞくっとして、思考が真っ白になる。


そうして、ようやく唇が離れる。


ミレイユは肩で息をしながら、ガクガク震える足を支えるようにレオンハルトにしがみつく。

「……ごめん。止まらなかった」

レオンハルトの声もかすれる。


「……」

ミレイユは頬を真っ赤にして、しがみつくしかできなかった。


だが、彼は再び顎を持ち上げ、唇を重ねる。

だが、今度は短く、けれど名残惜しそうに。

味わうように。


「これから君を拠点に連れていく。……みんなの前じゃできないし、本当は君を見せたくもない」

レオンハルトは囁くように言った。

「だから――その前に、もう一回」


ミレイユは小さく震えながらも、こくんと頷く。


二人は再び唇を重ねた。

先ほどよりもさらに甘く、深く、何度も。


ただ互いの想いを確かめ合うように――終わりを知らない口づけを交わした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ