41 銀のバッジと隠された真実
総司令官が本日から二人になると混同するので、レオンハルトの心の中の言い方もダリウスという表記に変えます。
心の動揺を押し殺しながら、赤絨毯をすすみ国王に頭を下げる。
「面をあげよ。レオンハルト」
国王の重く低く圧力のかかる声がかかる。
視線を上げると、国王の顔はどこかダリウスの雰囲気と似たものがあった。
「そなたを樹海防衛部隊の新たな隊長に任命する」
「はっ!謹んで拝命いたします」
面白そうに見る視線も、面白くなさそうに見る視線も感じるが、結局、国王派に恩義のある自分を隊長に据える。
一方で、第一騎士団の平民騎士を排除する宰相派の動き。
全く関心はなくても、ダリウスが信頼できる人物だったかもわからないのに、俺はその板挟みになっている。
続いて、王座の横で控えていた侍従が茶色の小箱を王の前に持ってくる。
その箱の中に輝く銀のバッチは、先ほども見たミレイユの師匠が遺した文書の末尾に記されていた印。
それをありがたく受け賜る。
確定だな
ミレイユの師匠は樹海防衛部隊の人間だ。
ーーー
任命式が終わり、深いため息を飲み込む。
すぐに、背後からあの声が響いた。
「おや、レオンハルト卿。この度は隊長任命、誠におめでとうございます」
振り返れば、そこにいたのはユリウス。
今日から上官だ。頭を下げて挨拶をかわす。
ユリウスはいやらしい笑みを浮かべながら、わざと周囲に聞こえるように言葉を続ける。
「さすが、その顔立ち。宮廷の奥方からの支援も厚いと噂ですからね。……もしかして、王妃様のお力添えでもあったのでは?」
にやりと笑みを深め、今度は耳元で囁く。
「覚えておいた方がいい。宮廷で“寵愛を受けた”と囁かれる者は、同時に排除の対象にもなる……とね」
その背を見送りながら、俺は強く拳を握りしめた。
まだ騎士団に入ったばかりの頃から、容姿と腕前で人目を引き、貴族女性たちの標的にされてきた。
中にはただの噂も、逃げられなかったものもある。
そして、若い騎士を物色する王妃にも目をつけられたのは事実だ。
何度ダリウスに助けられたことか。
そして、不必要な貴族の妬みを買ったことか。
王妃の気まぐれな遊びがどれだけ自分の自尊心を傷つけたかわかっていない。
周囲の視線が突き刺さるのを感じながら、新しい宿舎へと歩を進める。
ここで異動してくる部下と合流し、そのまま樹海防衛部隊の拠点へ向かう予定だ。
……正直、気が重い。
だが一つ、気になることがある。
もし本当にミレイユの師匠が樹海防衛部隊に所属していたのなら――ダリウスが「戦場で助けてもらって恋に落ちた」という話も、あながち作り話ではないのかもしれない。
なぜなら俺自身も、ミレイユに助けられて惚れてしまったからだ。
……つまり、俺とダリウスは似た者同士ってことか?
いや、それは認めたくないけど。
それにしても、錬金術師にすぎないはずのミレイユの師匠が、なぜ軍部に?
塔の四階で見つけたあの文書も、部隊の紋章が入っていた。どう見ても機密だ。
――問題は、これをどこまでミレイユに話すかだ。
彼女の憔悴した顔を思い出すと、真実を伝えるべきかどうか分からなくなる。
いっそ、俺が先にあの木箱を全部解体してしまうべきなのか?
移動の道すがら、そんな考えがぐるぐると頭を回り続けていた




