4 隠れ家から始まる生き残り計画
ミレイユは、転移で周囲の安全を確認したあと、この古びた塔を新しい拠点に決めた。
「ここで生活を立て直す。そして、お金が貯まったら絶対にこの国を出るんだから……」
そう強く心に誓う。
激しい尋問で傷だらけになった体は、ポーション一本では全然回復しきれなかった。
だけど、食料の確保は急務。
じっとしていられない。動かなきゃ……。
月明かりだけを頼りに、二階の小さな部屋へと移動する。
布をそっとめくると、埃をかぶったベッドが姿を現した。
隣には魔石ランプが置いてあって、ようやく灯りをつけられた。
「師匠……ありがとう。……いや、師匠のせいでこんな目に遭ったんだけどね」
小さく心の中で呟きながら、ミレイユは棚にあったハイポーションを一気に飲み干した。
ベッドの脇にある棚には、師匠が用意してくれたポーションや解毒剤がきちんと並んでいる。
散らばった資料も見えるけど、今はとにかく体を休めることだけに集中しよう。
ぐったりとベッドに倒れ込む。
ミレイユはまるで底なしの深みに落ちていくように、深い眠りに沈んでいった。
ーーー
目が覚めて、ぼんやりと天井を見上げる。
「……夢?いや、そんなものは見ていないはず」
いろんなことがありすぎて、師匠の夢でも見られたらいいのにと思ったのに。
「それにしても……店も仕込みもなくて、こんなにゆっくり起きられるのは初めてかも」
ハイポーションの効果は凄まじく、体の痛みはすっかり消えていた。
だが、空腹を和らげる効果はほぼゼロに等しい。
とりあえず窓を開けてみると、目の前はびっしりと蔦で覆われていた。
「これじゃあ外の様子もわからない……今は朝?昼?それとも夜?」
まだ時間の感覚も戻っていない。
「まずは何か切るものを……」
棚を探ると、冒険者セットの中に小型ナイフを見つけた。
「これでいける!」
ナイフで蔦をざくざくと切り落としていく。
不恰好だけど、一束ずつ落ちていくたびに光が差し込む。
ようやく朝だとわかった。
蔦の中には枯れている部分も多く、案外スムーズに切れたことに安堵した。
ーーー
階下に降りると、師匠の育成促進キットで育ったじゃがいもが、数日どころか一晩で食べられるほどに成長していた。
「師匠、すごすぎる!私がやっても、これが育つのに最低でも3日はかかるのに!」
豆も夕方には収穫できそうで、希望が膨らむ。
火打ち石を取り出し、慎重に火を起こす。
枯れ葉や落ち葉をくべて、焚き火がゆらゆらと燃え始めた。
湖の水を汲んで、鍋で煮沸しながらじゃがいもを煮る準備も万端だ。
「よし、これで最低限の生活はなんとかなる」
ほっと胸を撫で下ろしたその時、
「ん……?」
突然、辺りが煙でいっぱいになった。
焚き火の上からもくもくと黒い煙が立ち上っている。
「ひゃあああ!!やばい!これ、外から見たら火事だよ!絶対バレる!」
焦ってバケツの水をひっくり返し、必死で火を消そうと水をかける。
水がかかってパチパチと音を立て、煙が消えていくのを見てようやく一息ついた。
「はぁ……危なかった。火を起こすって思ったより難しいなあ」
ミレイユはため息混じりにぽつりと呟く。
「たかが火起こし、されど火起こしって感じ……」
火が消えてほっとしたのもつかの間、疲れが一気に押し寄せてきて、途方に暮れてしまう。
そんな彼女の背後でーー
気づかぬうちに、昨夜ここへ転移してきたときに使った魔法陣が、静かに、しかし確かに光り始めていた。