3 団長に見合いを持ちかけられた数日後、彼は彼女と共に消えた
第一騎士団団長、レオンハルト――若干25歳
大会優勝の実績に、先の戦での武勲。貴族ではないが、年のわりに突出した実力で、誰もが一目置く存在だった。
第一騎士団長に推薦し、団内をまとめあげてくれたのは前第一騎士団長で総司令官に昇進したダリウスだ。彼こそ第一騎士団団長に相応しいと周りを説得して、推薦してくれた。
近衛騎士団が貴族の子息ばかりで嫌がらせも多い中、庇ってくれたのも彼だった。
そんなある日――
「お前、見合いする気ないか?」
あまりに唐突なダリウスの言葉に、レオンハルトは即答した。
「……正直、職場の統制で手一杯です。近衛騎士団の嫌がらせをかわすだけでも精一杯。妻に割く時間なんてありません」
「だよなあ……。誰にでも頼める話じゃないし、お前が駄目なら諦めるしかないか」
妙に残念そうな顔だ。
……相手、もう決まってるな?
ダリウスが女の話を自分から持ち出すのは初めてだった。
戦場で命を救ってくれた錬金術師に惚れ込んでいる彼は、娼館にも行かず、浮いた噂もない。
そんな彼からの見合い話は、どう考えても本気の話だ。
「ちなみに、相手は?」
「俺が付き合ってる女性が育ててる子だ。今年で十八歳。結婚できると思うんだ」
「……結婚“できる”年齢、の間違いでしょう? 何でそんな急ぐんです」
自分との年の差もある。これから出会いも増える年頃の子に、慌てて伴侶を押し付ける必要はない――そう思った。
「彼女、娘が心配らしくてな。親に捨てられた子で、俺と一緒に暮らすのも未成年の間は遠慮してたみたいだ。やっと十八になったが……自分の幸せで手放していいのか迷ってる」
……子持ちだったのか。30歳そこそこと聞いてたけど...
しかも血のつながらない子を引き取って?
その場は流したが、気になって店の前を通ってみた。
石造りで出来た建物だが、錬金術師が作った大きなガラスのはめ込みが、中から外へ暖かいランプの灯りを外まで運び、思わず入りたくなるような空間を作り出している。
従業員は何人かいるが、一人だけ少女と呼べる年の子が接客している。質問にも的確に答え、他の店員に呼ばれては説明を繰り返している。相当な勉強量だ。
――あの子なら、一人でもやっていけそうだがな。
見合い、本当に必要なのか?
そう思っていた数日後――ダリウスは姿を消した。
彼女と共に。
……そして、あの娘を残して。
事情を聞かれたが、何も答えられなかった。
自分は簡単な尋問で済んだが、娘は相当激しくやられているらしい。
もしダリウスが犯罪に関わったとしたら....
ーーあの恋人の錬金術師に騙されたのだろうか。
娘もグルかもしれない……
いや、まだ十八の少女だ。騙されただけかもしれない。
ダリウスは金に執着のない人間だった。
戦の後にはよく食べる騎士全員に食事を奢るような人だ。
家も名門貴族なので、金に困ってもいない。
再び、道を通り過ぎるふりをして店の前を通ると、入り口は壊され、廃墟同然。あの時一生懸命に接客していた少女の姿はもうなかった。
だが、店の周辺は監視が何人かいるな。
えらくこの事件に執着してないか?
その時、レオンハルトはふと思い出す。
――あの見合いの時にダリウスに頼まれた、あの言葉を。